フューチャーは ネイチャーの中に
長野原町北軽井沢で27日に行われたフォーラム「きたかる移住計画」。基調講演したプロブロガーのイケダハヤトさんのほか、跡見学園女子大教授の靍(つる)理恵子さん、長野原町長の萩原睦男さん、ライターの藤野麻子さん、プレジデントリゾート軽井沢営業支配人の隈上雅志さん、野菜農家の山崎聡さん、酪農家の星野美紀さんの7人が、北軽井沢での暮らしぶりを例に、パネルディスカッションで地方の時代を見据えた暮らし方、働き方を探った。コーディネーターは上毛新聞社の関口雅弘編集局長。
イケダハヤトさん基調講演
田舎にこそ 起業チャンス
横浜市出身で首都圏で暮らしていた。待機児童と住宅環境の問題で、思い切って地方への移住を決め、現在は高知県本山町で生活している。
田舎での生活コストの安さは圧倒的だった。家賃は1~3万円、新鮮な野菜が安く買えて、住民同士のおすそ分け文化もある。
東京での生活費は一カ月20万円以上、住むために働くといった感じで、消耗するばかりだった。これに対して、田舎では10万円くらい。余裕が生まれ、人間らしく暮らせる。
さらに、子育てもしやすい。学校は少人数で大人の目が届き、いじめは深刻化しない。人も温かいので、地域の中に安心して子どもを放り込める。
教育が心配という意見もあるが「今の時代なんとでもなる」と考えていて、不安視はしていない。インターネットがあれば、どこでも勉強できる。
仕事もインターネットがあれば持ち運べる。私の場合は広告収入、アフィリエイト、本の制作販売などで年商は3千万円ほどになる。
移住者の中には農業や林業など、季節労働を組み合わせて収入を得ている人もいる。田舎でも仕事を集めて生活できる。
移住促進は民間と行政が協力して行うことが重要。例えば、民間は移住者同士のコミュニティーをつくったり、ビジネスの手伝いをする。移住者が排他的にならないような環境を整えたほうがいい。
一方、行政は移住者向けの空き家の確保や修繕、制度を整備する。若い人に空き家を積極的に提供していけば、地域は自然と活性化に向かう。
地域に必要な人材を採用し、会社のようにマネジメントしていき、民間と行政が協力して町全体を経営していくのが理想だ。
教育改革も移住者を増やす大きな武器になる。離島や山間部の学校でも、特長ある授業内容で志願者が増え、その学校に入れたいという親たちが移住してきている事例もある。長野原町も教育には力を入れてほしい。
魅力ある地域には面白い人がいる。「この人がいるからここに住みたい」「仲間になりたい」というようなシンボルとなる人が必要。自分自身も、高知在住のヒビノケイコさんの生活にあこがれて高知を選んだ。
一人のキーパーソンがいれば、地域に新しい人を呼ぶ。このサイクルが生まれることで、移住者は増加していく。
田舎には多くのビジネスチャンスが広がっているのに、起業家が足りない。生活コストが低いため、さまざまな事業を展開できる。私は高知の若手起業家9人に月10万円ずつ資金援助している。
田舎にはいろんな資源が埋もれている。アイデア豊かな若者に資源を提供すれば、自然とビジネスを生み出してくれる。
北軽井沢は野菜が安くて、涼しく静かで、食事もおいしい。長野や新潟方面に向かうアクセスも良いのに、情報がほとんどない。さまざまな可能性を秘めている地域なのに「超もったいない」と思う。
移住したことで私のブログのアクセス数は倍増した。高知の情報は少なかったが、求めている人は多かったようだ。北軽井沢地域にも同じことが言える。
ここには中古別荘という宝の山もある。活用していけばもっと魅力的な地域になっていくことは間違いない。
パネルディスカッション
- プロブロガー イケダハヤトさん
- 酪農家 星野美紀さん
- 野菜農家 山崎聡さん
仕事の幅に広がりも イケダさん
子育てには良い場所 星野さん
就農希望者に住まい 山崎さん
住みやすさを訴えて 隈上さん
人の面白さに気付く 藤野さん
別荘活用し移住体験 萩原さん
農村に増える若夫婦 靍さん
- プレジデントリゾート軽井沢営業支配人 隈上雅志さん
- ライター 藤野麻子さん
- 長野原町長 萩原睦男さん
- 跡見学園女子大教授 靍理恵子さん
関口 まずは自己紹介も交えて、地域への思いを聞きたい。靍さんは農村社会学が専門で、移住や地域の暮らしを研究している。
靍 農村移住の理由は時代とともに変わってきた。1970年代は社会活動家が中心だったが、80年代は40代から定年後の人を中心に人間らしい暮らしを求めて都会を離れる人が増えた。2000年以降は20代の夫婦や若い女性が単身で移り住むケースが増えている。
萩原 町には八ツ場ダム問題があったため、移住者のための施策は後手に回っていたが、今年は空き家バンク制度をスタートさせた。町の人口はダム建設に伴う流出を主因にピークの8300人から6千人に減ったが、北軽井沢だけは人口が増えている。今年を移住促進の元年と位置づけ、この流れを加速させたい。
関口 藤野さん、隈上さんは町外から移り住んできた。
藤野 幼少時、家族が北軽井沢が好きで山小屋を持っていた。移住して12年。この近くでカフェを経営し、ライターの仕事もしている。移り住んだ当初は生活が心配で、農家の手伝いをしたり、夫はキャンプ場で働いたりした。
隈上 2008年、先輩に「軽井沢のホテルで働かないか」と誘われたのがきっかけ。月1回のノルディックウオークやアイドルグループ「ももいろクローバーZ」のライブなどで地域活性化を図っている。
関口 山崎さん、星野さんは以前から北軽井沢にお住まいだ。
山崎 先祖が移住してきたのは6代前。祖父が土地を開墾して野菜農家を始めた。今は歌も歌う「シンガーソングファーマー」として、レタスやキャベツなどを作っている。冬場はマイナス20度になる厳しい土地だが、夏場はたくさん野菜が採れる。野菜20キロを詰めたギフトボックスなどを販売している。
星野 夫の祖父が何もない高原を開拓して始めた家。現在3代目の夫と成牛40頭、未成牛20頭を飼育しており、地域では中規模くらいの酪農家。子供は4人で一番下は中学生。今は子牛の飼育に力を入れている。北軽は自然が豊かで、子供を育てるにはとてもいい。
関口 イケダさん、改めて北軽井沢を訪れての印象は。
イケダ まず町長がイケメンなのが素晴らしい。昔ながらの首長がトップをやっていると新しい話が進みにくい。ここでは若い人たちが楽しみながら元気に暮らしているのが伝わってくる。
関口 移住した2人に感想と課題を聞きたい。
藤野 住み始めたころは自然の素晴らしさにただただ感動していたが、そのうち人の面白さに気付いた。長く住んでいる人も移住者も、個性的な人が交ざり合って暮らす不思議な町だ。魅力を一つずつ掘り起こしたくて、フリーペーパー「きたかる」を復刊させた。一方で冬場の仕事先など困ることもある。通年で働けるようになれば、移住者はもっと増えると思う。
隈上 「ここにずっと住もう」と思って8年。知り合いが増えた後半の4年で特に暮らしは充実した。幸せを感じる要因になるから、コミュニティーは必要だ。移住者を増やすには、ここがどういう町なのかというアピールが不足していると感じる。住みやすさをもっと訴求したらいい。
関口 自治体にも期待が掛かる。
萩原 空き家バンクのほか、移住者が空き家を改修したり、貸す人が家財処分に使える補助金制度や起業する人の支援制度も4月から始めた。まずは我々が、移住者を受け入れるんだ、ということをしっかりアピールしたい。
関口 移住に対する町民の意識を聞きたい。
星野 私が住んでいる地域には、さまざまな考えを持ったお嫁さんがたくさん入ってきている。もっと多くの人に来てもらい、町の良いところを見つけ、私たちに教えてほしいと思う。
山崎 新規就農したいけれどどうしたらいいか分からない人に、町が住む場所を用意してあげれば移住のきっかけになるかもしれない。いきなり一人前の農家になるのは難しい。手伝いをしながら学び、いずれ町で独り立ちしたらいい。
靍 行政が移住したい人の希望を丁寧に聞き、対応するところは成功している。もともと住んでいる人と移住者の交流の機会も重要。自然の豊かさ、文化や歴史といった町の良さを共有することが大切だ。
関口 移住を考えている人、受け入れる人へアドバイスやメッセージを。
藤野 移り住んだら、こもらず、地元に飛び込むと生活が面白くなる。無愛想に見えても話せば仲良くなれる。受け入れ側には1年限定のプレ移住体験の制度を提案したい。そうすれば安心して移住できるのではないか。
隈上 移住するとしても今している仕事は極めたほうがいい。私はサラリーマンなので、会社の業績を上げて雇用を増やし、後から来る人の間口を広げたい。
山崎 北軽井沢の冬は厳しいが、厳しい自然の中だからこそ生きている実感もある。激しく雪が降った翌朝、新雪に朝日が光るのはとてもきれい。そんなところも魅力だ。
星野 冬は雪と寒さだけで何もない。ただ、地域の人と話してみると、いろいろなことを知っている人がいるので魅力的に感じられる。
イケダ 20~30代で手に職がない人はとりあえず来ればどうにかなる。家さえあれば、仕事は紹介してもらえると思って気軽に来ていい。専門的な職を持ち、都会の子育てに限界を感じている人は早く移住したほうがいい。やり方次第で収入が上がるし、仕事の幅が広がる。
靍 試験的に移住を経験できれば、集落の行事や四季の良さが分かる。地元の人としっかりと話し、お互い納得した上で来てもらうほうが失敗しない。中には興味本位で来て、地元を引っかき回して帰る人もいる。
関口 最後に町長の総括を。
萩原 町には3000軒の別荘がある。移住をプレ体験できる町を実践したい。パネリストの皆さんにはそれぞれの立場から、北軽井沢の魅力発信をお願いしたい。「フューチャーはネイチャーの中にある」。この言葉を胸に、この地域の魅力を高めていきたい。