高崎市
37万5千の人口を誇る県内最大都市の高崎市。政令指定都市に準じた権限を持つ「中核市」となって5年余りがたつ中、子育てや高齢者福祉、教育、防災などさまざまな面で先駆的な取り組みを進めている。市が今年3月に策定した緊急創生プランでは2025年の人口を40万人とする積極的な目標を掲げており、地方創生のモデル都市となれるか期待されている。市内在住のソプラノ歌手、本島阿佐子さんをインタビュアーに迎え、富岡賢治市長に高崎発展に懸ける思いを聞いた。
人・モノ・情報
交流するまち
―高崎の魅力と、発展のための施策についてお聞かせください。 農工商、文化、スポーツのバランスが取れたまちとして発展してきました。一般財団法人日本総合研究所が調査した中核市の「幸福度ランキング」では3位。活力のあるまちという評価が定着してきています。 まちなかは元気だし、榛名山という宝もある。多様な魅力があります。大きな災害が少ない、安全なまちでもあります。
―高崎は各分野のバランスが取れた「住みたいまち」だと思います。定住を進めるには、子育てに関する取り組みも大切ですね。 地方都市はどこも同じ問題を抱えています。雇用が安定していなければ子どもを産めないし、産まれた後も女性が働けるよう、安心して預けられる保育所が必要です。 市では、保護者が希望する保育所に子どもを入れられる、本当の「待機児童ゼロ」を目指しています。そのためには保育士の確保が課題です。いつでも新しい子どもを受け入れられるよう、多めに保育士を採用した保育所に補助金を出しています。また、来年4月に開業予定の田町の多機能型住居ビルは7~10階を市管理の住宅とし、保育士をはじめ、看護師や介護職を優先的に受け入れます。
―教育にも力を入れているとうかがいました。 基礎学力を高めようと、2014年度から市内の小中学校で、放課後や土・日曜に保護者やボランティアが子どもたちの学習を支援する「学力アップ大作戦」を行っています。効果は確実に上がっていると感じています。 英語教育も重視しています。閉校した倉渕川浦小の跡地を、小中学生の山村留学の滞在施設として整備し、自然を生かした教育と同時に英語に囲まれた環境を提供する計画です。施設にはネーティブスピーカーを配置し、昼間は地元の小学校に通いながら、夜は英語で生活してもらいます。2018年4月の開設予定です。
―ずっと暮らしていくことを考えると、高齢者福祉も気になります。全国でも先進的な施策が取られているそうですね。 まず、「待つ福祉」から「出向く福祉」に転換しました。これまで地域包括支援センターはお年寄りが来るのを待って相談に乗っていましたが、これはおかしいと思ったのです。昨年度からは愛称を「高齢者あんしんセンター」として、職員がお年寄りの自宅を訪ねていくシステムに変えました。拠点も9カ所から26カ所に増やしています。 「孤独死ゼロ」を目指し、一人暮らしの高齢者宅に緊急通報装置や安否確認センサーを設置する事業も進めています。センサーは、一定の時間、人の動きを感知できない時に自動で通報される仕組みです。
―高齢化が進み、認知症のお年寄りが増えています。 認知症のお年寄りが徘徊(はいかい)で行方不明になった際、すぐに居場所が分かるよう、GPS機器を無償で貸し出しています。警察と連携し、本人を保護するところまで対応します。昨年10月から始め、都内で保護された例もありました。今は障害者にも対象を拡大しています。
―介護する家族の負担も大きくなっているのではないでしょうか。 介護疲れが家庭崩壊や離職につながるケースもあります。仕事で急に介護できなくなった場合などに、ヘルパーの訪問や介護付きの宿泊サービスを低価格で利用できる「介護SOSサービス」を4月から始めました。24時間365日、電話1本で利用できます。たまには家族も一息つきたい、というときにも使ってもらえたら。 高齢者福祉は行政がやるべきことの一つ。目いっぱいやりたいと思っています。
―防災対策についてはどんなお考えを持っていますか。 高崎は大きな災害が少ないですが、油断してはいけません。この3年間は毎年、市の職員約1200人を動員して危険箇所がないか、まち中を点検してきました。点検の結果として井野川の土砂を取り除いたことで、台風でも水があふれるようなことは起きていません。
―今年4月にあった熊本地震は高崎市民にも大きな衝撃を与えました。 熊本地震では古い木造住宅が倒壊して圧死されたケースが随分ありました。高崎には耐震基準が厳しくなかった旧建築基準法で造った約4万2千戸の木造住宅があり、うち555戸が今年の点検で危ないと判断されました。条例を作り、所有者に改修を勧告できるようにし、改修にかかる補助率も従来の2分の1(上限80万円)から3分の2(同140万円)に引き上げました。市内業者による施工も条件としています。
―足の悪いお年寄りは避難をためらう傾向があると聞いていますが。 市有のバス7台と乗用車を中心とした43台を市民の避難用車両に指定しました。大雨の日などに自力避難ができない場合は専用電話(027・321・5000)にかけてもらえば、すぐに迎えに伺います。災害時に市民に被害が出ないよう職員の役割分担もきちんと決めてあります。
―大雨が降ったためにアンダーパス(地下道)で車が水没するニュース映像をよく目にします。 市内には車が水没する恐れのあるアンダーパスが16カ所存在します。大雨の際にはアンダーパスの両側に市の職員を立たせておき、体を張って車を止めるようにしました。こういうアナログな方法が最後に市民の命を救うと思っています。職員には負担となっていますが、市民のためと理解してもらっています。
―文化や芸術、スポーツについてのご見解も聞かせてください。音楽活動をしている一人として関心があります。 高崎をグレードアップさせるには「人・モノ・情報」がより一層交流する場所となる必要があります。そのためにスポーツや文化活動は大きな役割を担っています。われらの宝の群馬音楽センターはこれからも大事に守っていきますが、「音楽のある街・高崎」の拠点としてJR高崎駅東口近くに文化芸術センター(仮称、2019年3月完成予定)を整備します。 県内最大級の規模となる新体育館「高崎アリーナ」も、来年4月の開館に向け整備が進んでいます。完成に先立ち、9月27日~10月2日には国際合気道大会が開かれ、世界各国からの参加者でにぎわいました。
―2020年に東京五輪・パラリンピックが開かれます。 事前合宿を市内に誘致するために活動する中で、男子バレーのポーランド代表チームを5月にお迎えしました。選手たちは市民の熱烈な歓迎ぶりに感激し、高崎を大変気に入ってくれ、「まちがきれいだ」と言っていただきました。市民みんながまちを大事にして生活しやすいようにしているということへの評価でしょう。こういう印象を持ってもらうことが、最大の企業や仕事の誘致策だと思っています。地方創生には市民の力が欠かせません。
もとじま・あさこ
国立音楽大を首席卒業。同大大学院修了後に渡欧し、ウィーン国立音楽大、スイス・バーゼル音楽大を修了。主にドイツ歌曲、宗教曲が専門で、現代曲にも精通している。受賞歴は、海外が国際バッハ・コンクール1位(1998年)や国際シューマン・コンクール2位(93年、1位の該当者なし)、国際ブラームス・コンクール2位(94年)など。国内でも第1回友愛ドイツ歌曲コンクール1位(90年)、上毛音楽賞(94年)などに輝いている。国内外で豊富な演奏経験があり、透明感のある歌声と豊かな表現力が評価されている。国立音楽大准教授。高崎市本町在住。
たかさきトピックス
教育 全小中学校にALT
英語教育の充実を目指し、2017年度までに外国語指導助手(ALT)を小中学校全83校に配置する。本年度は21人増員し、計62人が活動している。他にも「外国語活動」の導入を小学1年に前倒しするなど、早期から英語に触れられる環境づくりに取り組む。
子育て 保育士確保へバスツアー
人材不足が課題の保育士確保に向け、保育士を目指す学生や育児などで一時的に現場を離れている保育士を対象に、保育所見学バスツアーを開催している。現場の雰囲気に触れ、就職意欲を高めてもらうのが狙いだ。現役保育士との懇談の時間も設けられる。
高齢者福祉 自宅へ3食お届け
食事の支度をするのが難しい高齢者らを対象に、自宅へ食事を届ける「配食サービス」。昨年度までは平日の昼食のみだったが、4月から毎日3食利用可能となった。栄養バランスの良い食事が健康を支えるだけでなく、定期的な安否確認や見守りにもつながる。
スポーツのまち ポーランドが事前合宿
5月下旬、リオ五輪男子バレーボールの世界最終予選(東京)を控えたポーランドの男子代表チームが、市内で事前合宿を行った。市が2020年東京五輪・パラリンピックの事前合宿誘致を進める中で実現したもので、大勢の市民が選手たちを歓迎した。