全国の半分の市区町村が2040年には存続の難しい「消滅可能性都市」になると日本創生会議が発表して以来、人口減少対策は自治体が取り組む地方創生の最大の課題となっている。前橋市は今年3月、人口ビジョンと総合戦略で構成する「県都まえばし創生プラン」を発表。目指す将来像に「子どもたちの声が聞こえる ずっと住みたい生涯活躍のまち」を掲げた。15~19年度の5年間に取り組む総合戦略42事業では、「ジョブセンターまえばし」の開設など雇用創出策、前橋結婚手帳(仮称)の作成など結婚・出産・子育て支援策を掲げている。また、地域寺子屋事業などの教育事業、新たな「道の駅」建設など交流人口の増加にも取り組んでいく。

前橋市

ずっと 住みたい 街に

雇用
  • 「ジョブセンター」で定着支援
  • U・I・Jターンに奨励金
  • 創業目指す若者支援

若者が定着するには、安定的な雇用と収入の確保が欠かせない。以前から就労相談や就職支援セミナーなどに取り組んできたが、労働局所管のハローワークのように直接雇用に結びつく職業紹介はできず、支援が途切れてしまいがちなのが課題だった。

このため昨年8月、群馬労働局と雇用対策協定を締結。来年4月にジョブセンターまえばしを設置し、若者や子育て中の女性の就職支援、職業紹介から就職後の定着支援まで総合的に行う拠点とする。建物は勤労青少年ホーム(大渡町)を改修して使う。老朽化しているトイレの改修や窓口が設置される1階のバリアフリー化(段差解消)を来年1月までに行い、来年3月にはハローワーク前橋と市の就職支援窓口をプレオープンする予定だ。

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これと並び、市内の大学などに通う学生が市内の事業所へ就職したり、一度転出した若者が「地元に戻って就職したい」と思うような取り組みが求められている。前橋工科大の卒業生で県内の企業に就職するのは25%前後、市内に限ると14%前後にとどまるという。

UIJターンによって前橋市に転入し、市内の中小企業に就職した40歳未満の人と雇用した中小企業にそれぞれ5万円の就職奨励金を交付している。出身地に帰るUターンに限らず、市に移り住んで就職するIターンやJターンも積極的に奨励し、若者の定着につなげていく狙いだ。

昨年12月、前橋市創業センター(千代田町)を開設。「地元で新しい事業に挑戦したい」という若者を支援している。同センターを中心に、各機関と連携した一元的な創業支援により、多くの創業者を生み出す「ベンチャーヘブンまえばし」の実現を目指している。


結婚
  • 「結婚手帳」でキャリアデザイン支援
  • 「事業所内保育施設」に期待

前橋市の人口は2000年から10年ほど34万人台で推移したが、04年以降は減少に転じている。国の推計によると、40年に約28万人、60年に約22万人と見込まれている。

人口が減る一方、若者の未婚率は上昇傾向が続いている。15年度に実施した市民意識調査の結果、「結婚したい」という思いがありながら、具体的な行動に至っていない姿が浮かんできた。多くの若者が定着し、創生プランの基本目標である「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」には、若者の意識にある結婚への障壁を把握し、それを打破するアクションプランを示す必要がある。

結婚 本年度、若者の視点で結婚に向けた取り組みを提言する「前橋結婚手帳」(仮称)を作成し、来年度以降、市内在住・在勤の若者への浸透を図る。「結婚はお金がかかる」「どうやって相手を探したらいいか分からない」など独身男女が持つ漠然とした不安を解消し、具体的に結婚をイメージしてもらう狙いだ。市は「結婚に向けた障壁とその解決策をロードマップとして可視化し、若者のキャリアデザインを支援したい」としている。

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結婚した後、安心して出産・子育てができる環境づくりも大切だ。特に働く女性がためらわずに出産し、子育てと仕事を両立するため「事業所内保育施設」への期待が高まっている。

市内には現在、事業所内保育所がカ所にあり、このうち8カ所は病院。子育てを理由に優秀な人材を失わないため、ワークライフバランスの推進に積極的な企業が年々増えている。

今後は国の助成金や市の「企業主導型事業所内保育施設設置促進補助金」など制度の周知を十分に図り、病院や大手企業に限らず、中小企業や工業団地内企業による共同保育所の設置、外部委託による運営などを奨励し、継続的な雇用と安定収入を確保することが求められている。

また、核家族化や地域のつながりの希薄化を背景に近年、子育て世帯の孤立感や負担感が強まっている。前橋保健センター(朝日町)2階にある子育て世代包括支援センターの相談や指導体制をより強化し、妊娠・出産・育児期の切れ目のない支援を充実させていく方針だ。


地域寺子屋で放課後、集中して自主勉強する生徒たち=五中の地域活動室
教育
  • 「寺子屋」で学習支援
  • ICT教育で意欲向上

核家族化や共働き世帯の増加に伴い、小中学生が放課後、安心して学べる場所づくりが課題になっていた。

教育委員会は、2015年度から生活保護世帯の中学生を対象に社会福祉課が行っている「学習支援事業(M-Change)」を拡充、5月から放課後の中学生に自主学習の場を提供する「地域寺子屋事業」を始めた。地域寺子屋は、事前登録制で原則として学期中の月、木曜の午後5~8時に開かれる。五中と七中の地域活動室と永明、芳賀、総社、大胡の各公民館の6カ所に富士見公民館が2学期から加わり、計7カ所になる。

学期末に訪ねた五中の地域活動室では、部活動を終えた生徒が教科書や問題集を広げ、学習に余念がない。柿本悠樹君(3年)は「部活で疲れていても気持ちを切り替えて学べる場所ができて良かった」と話す。

生徒を見守るのは、教員OBの指導者や地域サポーター、教員志望の大学生ボランティアだ。必ず2人以上の大人がいて生徒の質問などに助言する点が、寺子屋の特徴だ。指導者の宝田智恵子さんは「おしゃべりの心配は杞憂で黙々と勉強する姿に感心している」と話す。宮崎徹校長も「放課後、集中して勉強する生活習慣づくりが大切」と語る。

未実施の中学についても近くの公共施設の利用を模索中だ。寺子屋を行っている地域では秋以降、対象を小学生にも広げ、公民館で活動する地域住民、中学生ボランティアに協力を依頼し、休日に体験活動を行うことができたらと考えている。地域住民のまなざしの中で子どもたちが交流し、社会性、人間性を育む機会をつくる。

子どもたちが思わず身を乗り出して学ぶ、わかりやすい授業を目指し、情報通信技術(ICT)を効果的に利用して授業を行うICT教育を2013年から進めている。

小中学校と特別支援学校70校にプロジェクターやマグネットスクリーン、実物投影機をはじめ、教師と児童・生徒用のタブレット型パソコンを導入。無線LANの敷設を行い、ICTを使って学ぶ全国でも最先端の環境を順次整備してきた。

2013年度から3年間、城南小と鎌倉中をタブレット型パソコン(PC)活用授業実践校に指定。城南小(後藤章校長)では、授業導入部でのスクリーンの教材提示をはじめ、グループの調べ学習、意見発表や話し合い、協働製作の場面でICTを活用してさまざまな授業を行った。笠原晶子教頭は「アンケートでは9割以上の児童が、タブレットPCを使った授業は楽しくてわかりやすいと感じ、発表も活発化した。さらに活用方法を工夫し、授業を改善して確かな学力を育めるように努めたい」と話す。

ここにしかない 赤城を味わい、
ここでしかできない 赤城を体験する。

上武道路上空からの道の駅計画地付近(前橋市関根町ほか)
観光
  • 「赤城山」核に道の駅新設
  • 「ツーリズム」を一体化

交流人口の増加を目指し、認知度の高い「赤城山」を核に、周辺の魅力を発信する道の駅の新設と「赤城山ツーリズム」を計画に盛り込んだ。

道の駅は2020年のオープンを目指し、本年度全線開通予定の国道17号上武道路沿いに整備する。14年度に場所を選定し、15年度に設置検討協議会を立ち上げて、散在する集客拠点をネットワーク化し前橋の魅力を発信するなどの基本計画を策定した。本年度は基本計画の具体化を進め、施設設計から運営まで官民連携で取り組みを進める。

昨年度、市民や首都圏の道路利用者を対象に前橋の印象について聞いたところ、「特にない」が一番多く、市内で行ったことのある場所は市内の7割、市外の2割が赤城山と回答した。アンケート結果を踏まえ、体験施設を設けたり、赤城山や南麓を印象付けるような特産品を販売するほか、「ぐりーんふらわー牧場・大胡」(滝窪町)「赤城の恵」(荻窪町)「ふじみ」(富士見町石井)の市内3カ所の道の駅と連携する施設とし、市内やほかの道の駅に回遊してもらえるよう情報を提供するコンシェルジュデスクを設置する予定。今後は民間のノウハウを取り入れて、移住や定住の増加を視野に内容を詰めていく。道の駅推進室は「地元の人に愛される施設にしたい」と話す。

赤城の観光振興は、グリーンツーリズム、エコツーリズム、ヘルスツーリズムなどを「赤城山ツーリズム」としてパッケージ化する。ツアーはNPO法人赤城自然塾に委託し、市や団体と連携して赤城南麓の観光振興を一体的に進める。同NPOは年度内に日本版DMO(観光地域づくり推進法人)への登録を観光庁へ申請する。

昨年度に続き、本年度も首都圏住民を対象に体験型プログラムを中心とするモニターツアーを行う。来年2月までの8回の予定で、赤城周辺でキャンプやハイキング、農業体験などを楽しんでもらう。集客のニーズの調査を行いながら来年3月に事業の検証と今後の計画を作成する。収穫体験などで新たな受け入れ態勢を広げ、山頂レジャーへの新規事業者の参入も検討することにしている。

3日にビジョン 発表会
多彩な取り組み始動

ホテル 約300年の歴史を持つ前橋市本町の旅館「白井屋」をリノベーションして、デザインホテルとして復刻。建築家は世界的に有名な藤本壮介氏。発表会当日は藤本氏自らが登壇してプロジェクトを発表。2018年に開業予定。
飲食 東京で日本料理、スペイン料理、小籠包などを展開し、うち2店舗でミシュラン星を獲得している阿部光峰氏が、前橋の豚を使った新業態の飲食店に挑戦。
飲食 野菜パスタで有名なAW Kitchenの総料理長、澤井雷作氏が、米国ポートランド発、日本初上陸のハンドメイドパスタ「GRASSA」にインスパイアされ、前橋の食材を使った独自のレストランに挑戦。
和菓子 東京渋谷でデザイン会社を経営する村瀬隆明氏が、地元名古屋の和菓子職人とタッグを組んで前橋銘菓の開発に挑戦。日本ならではの「和み」をコンセプトに、世界展開も視野に入れる。
農業 10倍の収益力を誇る野菜×電気×CO2ビジネス、道の駅の魅力を高める農業の六次産業化、農業分野で雇用200人と人材育成など、前橋発の「スマートアグリ」で、若者に夢のある新しい農業のかたちを提唱する。

前橋ビジョン発表会(前橋市、田中仁財団など主催)が8月3日19時から、同市岩神町のヤマダグリーンドーム前橋で開かれる。第一部は前橋の未来をつくるビジョンが発表され、同時に新たな取り組みに挑戦する人たちによる多くのプロジェクトが発表される。

前橋ビジョンは、民間の視点から前橋の特徴を調査・分析し、市の将来像を見据え、どんな街を目指すのかを示すまちづくりに関するビジョンである。前橋市は一般財団法人田中仁財団からの提案を受け、「都市魅力アップ共創(民間協働)推進事業」として位置づけ連携して取り組んでいる。今年2月に開催された中間発表会では、前橋市の特長について「Where good things grow(良いものが育つまち)」という分析がなされた。8月3日の発表会では、この分析結果を、前橋市ゆかりの糸井重里氏による新しい解釈として発表される。前橋ビジョンは料理を盛り付ける皿のようなもの。その皿に、どのような料理を作って盛るかは前橋の発展に携わる一人一人の役割と言える。

発表されるプロジェクトは前橋をより魅力的にするホテル、レストラン、カフェ、和菓子、農業、教育など多彩な内容。既に進行中のものもある。地元に限らず、国内外から移住者や観光客を呼び込めそうな、わくわくするプロジェクトばかりだ。