第5回 農と食、 人のつながりで、山間部から群馬を元気に

[2019/01/24]
北毛茶屋おかみ 中村茉由さん
人口減少や高齢化が進む過疎地に外からの人材を呼び込み、その定住・定着を図る「地域おこし協力隊」制度。全国で約5000人、県内でも約90名の隊員が活動しており、地域活動の担い手として活躍が期待されています。片品村地域おこし協力隊として3年間の任期を終えた中村茉由さん(29)は村内に定住し、2018年春には飲食店「北毛茶屋」(同村菅沼)を開業しました。Iターンの実践者である中村さんに、移住生活のリアルを聞きました。
中村さんは茨城県日立市出身で都市部育ちです。なぜ、雪深い片品に住もうと選んだのですか。
中村

日立はすごく都会というわけではないのですが、企業城下町の地方都市です。両親ともに日立市内で育ったので、夏休みに帰省するような「田舎」を持たずに育ちました。なので自然への憧れが強く、小学5年の時には地元で開催された29泊30日の長期キャンプに自ら申し込みました。夏休みの間中、いかだで川を渡ったり、ママチャリでフルマラソンをしたり。自然の中で過ごす時間はとても楽しかったです。この体験が強く印象に残り、大学卒業後は飲食店勤務を経て、北海道で自然体験を行うNPO法人に転職しました。

北海道での活動が一区切りついたタイミングで、片品村地域おこし協力隊の募集を知り、活動内容もこれまでの経験を活かせるかもしれないなと興味を持ちました。北関東のどこかでと思っていたのですが、片品を選んだ決め手は水でした。「水道からミネラルウォーター」というキャッチフレーズにやられましたね(笑)

冬の片品は一面の雪景色。 「雪は好きなので全く苦にならない」と話す中村さん
地域おこし協力隊としての3年間はどのような活動をしていましたか。
中村

地域のイベントの手伝いや特産品の開発など、さまざまな地域活動に関わりました。地元食材を使ったすき焼きメニューを考案したり、遊休農地を活用してハーブガーデンを作ったり。楽しかったのですが、3年の任期が終わった後、片品でどう暮らしていくかという将来像は描けずにいました。

「起業」という選択肢を教えてくれたのは、北毛地域で暮らす人が交流するコミュニティー「北毛茶会」のメンバーです。中には経営者の方もいて「片品には足りないものがたくさんあって、それはビジネスチャンスだよ」とアドバイスをくれました。

私が目指す「農と食の地域おこし」を実現する場として、飲食店「北毛茶屋」を起業しよう―。そう決めてから、片品に住み続ける自分の姿が一気に現実味を帯びてきました。

北毛茶屋のキッチンカーでイベントに参加する中村さん。 地元食材を使った豚丼などを販売している
片品村内で「北毛茶屋」を開業し、約1年が経とうとしています。
中村

最初は、キッチンカーのみの移動販売を考えていました。でも調理場が必要になり、店舗を探していたところ、空き店舗だった今のお店を紹介していただきました。大家さんも理解がある方で、地域おこしのためならばと家賃に配慮していただき、店をオープンさせた後も何かと気にかけていただいています。地域の皆さまの応援とサポートがあってこそ、今までやってこられたと実感しています。

地域おこし協力隊は、移住の入り口としては優れた制度ですが、実際に定住するとなると仕事や住居、教育環境などの課題が出てきます。現在は片品村移住・定住コーディネーターとして、自らが移住・定住する中で見つけた課題から、より定住しやすい環境づくりに取り組んでいます。特に移住者と地域をつなぐコミュニティーづくりに力を入れています。北毛茶屋は、地域おこしコミュニティーの拠点となる場所でもあるのです。

今でも何かと気にかけてくれる大家の大竹さん(右)
2018年夏には、北毛茶屋を拠点に北毛地域の地域づくりを学ぶコミュニティー「片品村地域おこし研究会」を立ち上げました。
中村

まちづくりというと都市部の問題ばかりクローズアップされますが、群馬の半分以上は森林、つまりグリーンエリアです。都市部の手法をそのまま持ち込んだからといって、中山間地の地域おこしが成功するとは思えません。

研究会では、北毛の生活者としての視点で地域課題をとらえ、一緒に解決する仲間を増やしていきたいと思います。今後も継続的な勉強会や事例発表会、リノベーションプロジェクトなどを手掛けていくつもりです。山間部の地域おこしは、片品だけでなく全国で共通する問題だと思います。興味がある方は、地域を問わずぜひ一度参加してみてください。

地域コミュニティーの拠点になっている「北毛茶屋」
北毛茶屋
片品村菅沼272‐1 0278-25-3577
※冬季(11~4月)の営業は予約のみ。土日祝祭日は丸沼高原スキー場(片品村)の高原の駅内に臨時出店している。
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