Iトーク特別版
「ローカルメディア・ナイト」
ローカルメディア・プレーヤーからの提言

[2019/08/16]
地方の抱える課題とメディアの役割を考える公開トーク「ローカルメディア・ナイト」が7月23日、上毛新聞社(前橋市古市町)で開かれた。登壇した市根井直規さん(25)、西涼子さん(25)、高野綾子さん(29)はいずれも群馬県内の情報を伝える「ローカルメディア」の運営者。同社編集部の須藤拓生さん(44)をコーディネーターに、若者に伝わる情報発信について語り合った。

「思い」が読者の共感を呼ぶ

須藤

まずは自己紹介から。自分は上毛新聞社で長く記者をして、2018年春に紙面のレイアウトに携わる編集部に配属されました。夜勤の職場なので、午前中は業務がありません。そこで同年6月、地元の活性化のために新前橋周辺の東地区に特化したウェブメディア「あずまある」を立ち上げました。

須藤拓生 「あずまある」編集長/ 上毛新聞社に入社後、記者を経て現在は編集部に所属。2018年6月に、前橋市の東地区に特化したウェブサイト「あずまある」を開設。新規出店やイベント情報、地域の歴史など地元密着の記事を掲載している。
西

高崎市のリフォーム会社「(株)正和」の社員として、オウンドメディア(企業運営の情報媒体)の「高崎で暮らす」を運営しています。高崎に住む「人」のインタビューを掲載することで、街と企業のブランディングにつなげています。

西涼子さん「高崎で暮らす」編集長/リフォーム会社「(株)正和」(高崎市江木町)の社員として、オウンドメディア「高崎で暮らす」を2018年6月から運営。「あなただけの”高崎”を発見する」をコンセプトに、主に高崎で暮らす「人」に焦点を当てた長文のインタビューを掲載している。
高野

埼玉県内で看護師をしつつ、出身地の下仁田町が発行する冊子「おてんま」の編集部に参加しています。「おてんま」はウェブ版がなく紙媒体のみです。下仁田町は高齢化が進んでいるので、高齢者が手に取りやすい冊子で制作しています。

高野綾子さん 「おてんま編集部」/ 国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊にも参加した行動派の看護師。下仁田町の住民や移住者、地域おこし協力隊などでつくる「おてんま編集部」に参加する。
市根井

フリーランスでウェブ編集者とライターをしています。出身は前橋市で、住居は伊勢崎市、仕事の拠点は高崎市です。ウェブメディア「gooma(ぐーま)」は県内全域が取材対象で、自分の好きなものをテーマに記事を書いています。

市根井直規さん「gooma」編集長/県内を拠点にウェブ編集者やライターとして活躍。2017年に「群馬のニュー&オールドカルチャー」がテーマのウェブメディア「gooma」を開設した。全県を取材領域として、観光地や各地の文化をポップな文章で紹介している。
須藤

トークのテーマは「若者への情報発信」です。就職や進学を機に、多くの若者が群馬から都市部へ流出しています。メディアの情報が届きづらい若者に、群馬の魅力をどう伝えれば良いのでしょうか。

市根井

定住促進の情報発信は難易度が高いです。友達と「LINE(ライン)」で連絡を取り合ったり、「ユーチューブ」で動画を見たり。若者の可処分時間は限られています。メディアに関心を持ってもらうには、友達以上の価値を感じてもらわないと。情報に分かりやすさや新しさを求める傾向があるので、見出しやデザインで「読んだら面白そう」と興味を引く工夫も大切です。

西

親しみを持ってもらうため、記事には必ず読者に投げ掛ける言葉を入れています。これは「私に向けて書かれている」と感じてもらうための工夫です。

高野

若者に限らず、人の心を動かす記事は事実以上に「思い」が大切です。市根井さんや西さんの記事は、取材対象の生き方や志の部分まで丁寧に描いている印象があります。

若者に伝わる記事について語る登壇者たち
須藤

若者への情報発信を考える上で、ソーシャルメディアの活用は欠かせません。シェアされやすい記事のこつはありますか。

市根井

記事の冒頭に添える「アイキャッチ画像」に、取材した人の顔を出す。取材対象の知り合いが気付いてシェアしてくれます。

西

インタビュー記事を書くときは、子供時代から現在までじっくり取材します。その人の人生や考えをまとめた自己紹介として、記事をシェアしてくれる人が多いですね。

足りない部分もさらけ出す

須藤

情報通信技術(ICT)の普及で、リモートワークや都市と地方の2拠点生活が増えつつあります。仕事や居住の選択肢が増えると、選ばれる地域と選ばれない地域の格差がますます広がっています。群馬が選ばれるために、ローカルメディアができることとは。

上毛新聞社で開かれた「ローカルメディア・ナイト」
市根井

地方で面白い仕事を探す時、まずインターネットで検索します。地域の情報がネット上にアーカイブされていなければ、そもそも選択肢に上がらないのです。

須藤

ローカルメディアが取り上げて、初めて文字に残る記事もあります。「あずまある」で約300本の記事を書いた結果、テレビや新聞といったマスメディアとローカルメディアの取材領域は競合しないと実感しました。

高野

住む地域を決める時、そこに仕事があるかが重要です。埼玉に移り住んだのは、得たい学びや仕事、仲間がいたから。同じものが下仁田にあれば定住していました。

西

選択肢が多い時代には、定住・移住促進のアプローチを変える必要があります。単に「来てください」ではなく、移住した先の生き方、働き方までしっかりと示してほしい。

高野

下仁田は自然が豊かで水がきれいで、地元ならではの安心感があります。都市部に住みながら、たまに下仁田へ癒やされに来る―。私のように、外から町に関わる交流人口を増やすことに可能性を感じます。町の魅力を外に伝える一方、中への情報発信も大切です。「おてんま」は町の良い部分だけでなく、過疎化への不安など住民の本音も引き出し、共有することを目指しています。

「おてんま」は2019年1月に創刊、現在は3号まで発行。下仁田町内の事業所や役場で、配布している。ふるさと納税の寄付者にも送っている
市根井

足りていない部分から目をそらさない、何もない現状も包み隠さず伝えてほしい。例えばさびれた観光地をPRする時、無理に面白い部分をつくる必要はありません。空き店舗が多くて困っているという視点で紹介すれば、観光ではなく「俺が何とかする」と若者が集まり、新たなビジネスが生まれるかもしれない。

公開トークには約40人の聴衆が集まり、「ローカルメディア」への関心の高さが感じられた

メディアより先に目指す社会

須藤

これからローカルメディアを始めたい人にアドバイスを。

西

始めるより、続けていくことの方が難しい。私は1人で取材から編集までこなしているので作業は孤独です。やりきる気持ちがないと、単なるブログになってしまいます。大切なのはメディアの先に何を目指すのか。目的さえ決まれば、実現する手段が自分のメディアなのか、またはイベントなのか、自ずと答えが見つかると思います。

高野

下仁田のために何かしたいと思っていても、一人ではできなかった。編集部という居場所があったから、離れていても参加できます。ローカルメディアのプレーヤー同士がもっとつながれば、新しい人も参加しやすくなります。

市根井

ウェブメディアはお金になりません。稼ぐことを目的に始めると心が折れてしまいます。メディアには二つのタイプがあって、役立つ情報を速報するか、長く読まれる記事を書くか。goomaのような後者のタイプは、自分の興味に対して誠実でいることが続ける秘けつです。好きではないことは、無理に記事化しない方がいい。

須藤

収益化に成功しているローカルメディアは数少ないのが現状です。でも、やってみたいという人がいればぜひ挑戦してほしい。取材を通じて地域とつながると、自分の世界が広がります。メディアは地域と自分をつなぐきっかけづくりになる、自分はそう信じています。

~質疑応答~

ローカルメディアの定義とは。

高野

私は今回のイベントで初めて「ローカルメディア」という言葉を知りました。地域に関わっている人が作るメディア、という意味でしょうか。

市根井

ローカルメディアの解釈は人によって異なります。僕の基準は編集が入っているかどうか。書き手の視点が反映された記事こそ、ローカルメディアの面白さだと思います。

西

いろいろありますが共通するのは「偏っていること」。地域や人、興味など書き手の思い入れが限定されていれば、それはローカルメディアと呼べるのではないでしょうか。

地方で働きたい都会の若者を、群馬に呼び込むにはどうしたらいいのか。

高野

群馬は東京への近さが強みです。その点を強調してPRするのがよいと思います。

市根井

若者主催のイベントを増やしたり、20代が面白そうなクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げたり。若者が群馬で楽しんでいる姿を伝えることが大切です。

西

県外で暮らした経験がないので「一度は東京に出たほうがいい」と勧められることも。でも地元育ちだから伝えられることもある。県内の暮らしが充実していれば、自然と若者は集まってくるのではないでしょうか。

外国語や外国人の方への対応は。

市根井

東京五輪や群馬ディスティネーションキャンペーン(DC)を控え、外国の方へ情報発信は重要だと思いますが、多言語化には対応できていません。まずは、地域の人に当事者意識を持ってもらうことが大切かなと思っています。

高野

「おてんま」は日本語版のみですが、編集部内に台湾の方がいます。外国語指導助手(ALT)を取材したり、メディアの内側から外国の方に関わってもらっています。

西

外国語対応は課題の一つで、現在は「シネマテークたかさき」の上映スケジュールのみ頑張って英訳しています。最近は便利な翻訳機能も増えましたが、記事のニュアンスまで伝えるのは難しい。「おてんま」のように、編集部に外国人の方に参加してもらうのが一番いいですね。

イタリア・ローマに留学した時、現地のローカルメディアが貴重な情報源だった。県内の外国人が街に関わる機会が増えれば、地域が活性化すると思う。

市根井

自分が海外に行った時を想像すると…外国語対応のローカルメディアがあったら便利だと思います。

西

翻訳作業は時間と労力が必要な上、外国の方がいきなりニッチなローカルメディアにたどり着くのは難しい。単体でやるより、ローカルメディアのキュレーションサイトを作った方がよいと思います。

上毛新聞社がロールメディアの情報をまとめて、外国語訳をしてみては。

須藤

良い提言をいただきました。地域の魅力を伝える記事を世界の人にどう届けるかは、地方新聞社にとって新しい視点です。本日はありがとうございました。

参加者と登壇者で記念撮影。みんないい笑顔です!