下仁田・ 沼田さん一家 「新たな地元」で 出産 町民の温かさに 包まれ

「この子と一緒に町の温かさに育まれている」と 優しく旺己ちゃんを抱く優希さん

地元で愛されてきた老舗食堂の味を継承しようと千葉県からやってきた沼田香輝(25)、優希(29)夫妻=下仁田町下仁田。8月に初めての子どもに恵まれた。

元気な産声を上げたわが子に旺己(おうき)という名前を付けた。「旺の字には、とにかく元気で健康に育ってほしいという願い、己には、自分をしっかり持ってもらえたらとの思いを込めた」という。旺己は優希の腕の中が大好きなようで、安心したように寝息を立てる。「よく眠る子。今の時点で結構親孝行なのかな」と、なりたての父と母が顔を見合わせて笑う。

里帰り出産を選ぶ母親もいるが、優希はそうしなかった。香輝は今や、老舗食堂「一番」の大きな戦力となっている。「彼と一緒にこの子を迎えたい。この地で大きくなっていく命だから」と、ごく自然に「新たな地元であり、わが子の古里」を出産の地に選んだ。

「一番」を切り盛りする大串秀夫(78)、房子(78)夫妻の強力なバックアップもありがたかったという。産前産後は店に出る時間をずらしたり短くしたりできた香輝は「入院時は、毎日顔を見に行くことができて安心した」と振り返る。

下仁田に住み始めて1年4カ月の優希。当初は、土地も人も全てが初めてで「ここで暮らす」という実感をつかめなかった。しかし「下仁田の味を守り、伝える」と奮闘する香輝の姿勢から、周りには人が集まり「何かあったら言いなよ」という声が数多く寄せられた。「こんなにも気にしてもらっていいのだろうか」と、町民の優しさに当惑したが、「温かさを全身で感じて」地に足が着くようになってきた。

驚いたのは、たくさんの人が祝福してくれたこと。店から帰宅した香輝の手には連日、常連客から贈られたお祝いの品があった。日ごろ活用するスーパーマーケットの店員から「おめでとう」と乳児用の洗剤を贈られた時は仰天した。「万が一、足りなくなってしまうと困る」と多めに用意した内祝いは、次々と渡すことができた。

来春には、町内の保育園に復職する予定だ。「この子と一緒に出勤します」と、たくましい母親の顔をのぞかせる。第二の古里で、さまざまな経験を積んだ優希は「この町には夫と同じ温かさがあった」とほほ笑んだ。

(敬称略)