
人との出合い
活力
地域の未来
語り合う
強烈な日差しが本格的な夏の訪れを告げている。全国屈指の暑さで知られる群馬を新天地として選んだ4家族。さまざまな悩みを抱えながらも、支えてくれる地域の人たちの熱い思いを活力に、新たな古里で暮らす。


父に、母に
下仁田町の老舗食堂で修業する沼田香輝(25)にとって、今年の夏は忘れることのできない季節になりそうだ。妻、優希(29)のおなかで第1子がすくすくと育っており、8月には父に、そして母になる。誕生を自分たちのことのように待ちわびる仲間もできた。
「町で新しく若い子が働き始めた」と聞き、喜んだのが居酒屋を切り盛りする斎藤訓史(37)=伊勢崎市出身=だった。「よそから来て、町の飲食業を盛り上げる」という共通の志があり、生涯の仲間となるのに時間はかからなかった。何の遠慮もなく笑い合える友と、町の未来を語り合っている。
オンとオフ
館林市でコーヒー専門店を営む佐藤雄一郎と早苗。開店から1年と3カ月が過ぎ、応援してくれる常連客も増えたが、早苗は「どうしたら、お客さんがずっと来てくれるのかいつも考えている」と話す。
2人で和やかに話し合う日もあれば、思うようにいかない日だってある。そんな時にはやっぱり、長男、龍(3)の存在が二人の心を和ませてくれる。保育園から帰ってきた龍と一緒に遊んだり、遊ぶ姿をスマートフォンで撮影したり―。雄一郎は「夕ご飯の時間とか家では、あまり仕事の話はしない。気持ちを休ませる時間も大切なので」とオンとオフの切り替えを心掛けている。


支える側に
日に日に厳しさを増す夏の日差しとともに、2人の子どもたちの日焼けも濃くなっていく。もうすぐ夏休み。高崎市に移り4年が過ぎた阿部功(41)は、毎日の専業主夫業に加え、子育て支援のボランティアなどで忙しい。
都内から移住、知り合いのいない中で、子育てしながら「孤独」を感じていた。誰かに会いたくて、積極的に外へ出た。現在はそのつながりと得意のカメラを生かし、児童館や子育て応援サイトで活動するほか、写真教室などにも取り組む。子育て中の親の交流の場も立ち上げた。「本当に出会いに恵まれた」。見知らぬ土地で、人に支えられてきた。そして今は支える側でもある。
変わる景色
片品村の五十嵐寛明(41)は5月中旬、本格的な登山シーズンを迎えた尾瀬国立公園で20年目となる歩荷(ぼっか)の仕事をスタートさせた。今月7日には、ワタスゲが見頃を迎えた尾瀬ケ原の木道を歩きながら「毎日同じ道を歩いていてもどんどん景色が変わる。飽きることがない」と尾瀬の魅力を話してくれた。
体力の衰えは感じていないが「どんなに調子よくてもあしたはだめになるかもしれない。なのでやめ時は考えていない」という。一緒に歩荷として働いたことがある妻ののぞみ(34)は「本当にやめる気がないようだ。この時季はいつも楽しそうにしている」と変わらぬ姿を語った。
(敬称略)