神流町

群馬県南西部に位置し、豊かな自然に恵まれた神流町。山林や古民家、観光施設などを有効活用し、活性化に結び付ける取り組みが実を結びつつある。各種施設の新設やリニューアルが終わり、これらを生かした産業や観光振興が本格化。小さくても「住んでよかった」「住んでみたい」と実感できる町へ着実に近づいている。

この街に住んでよかった。

【大工志塾】伝統の建築技術継承に協力

住宅産業研修財団が主催する「大工志塾」は、伝統技術を継承する若手大工の育成を目指す研修プログラムで2018年にスタート。町と神流川森林組合が協力している。

実技研修には全国から30人程度が参加。1期生はくぎを使わずに木材を組み合わせる「合掌造り」や木造加工技術の一つ「規矩(きく)術(じゅつ)」を学んだほか、三重塔を製作した。受講生が製作した塔は、古民家を活用した宿泊施設「川の音(ね)」の入り口に設置。2期生は五重塔を製作、町中心部から見える城山公園(予定地)に設置した。

【林業再生】人口増や地域活性化に成果

「林業再生プロジェクト」は、林業振興により雇用を生み出し、人口増や活性化につなげることなどが狙い。他県から移住して、林業従事者として働く若者もおり、期待した成果が見え始めている。

プロジェクトの一環として昨年夏、木材の集積施設「麻生木材ヤード」を建設した。山地の集積場所で保管していた木材を1カ所に集約し、作業効率化や搬出コストの削減を図る。

場所は神流川沿いの神流川森林組合事務所の隣接地で、総面積は約5500平方メートル。木材の検品、仕分けエリアやA~Cの規格ごとの貯木場、チップ加工場(延べ床面積約120平方メートル)を設置し、最大1500立方メートルの木材を貯蔵できる。

【恐竜センター】ARアプリで新たな楽しみ方

神流町恐竜センターは新年度、「展示ガイドARアプリ」を導入し、新たな楽しみ方を提供する。

あらかじめ専用アプリを組み込んだタブレット端末を、有料で貸し出す。画面を通して、アニメーションが付いた展示物を見ることができる。

スマートフォンアプリは、来館者に自身のスマートフォンにインストールして利用してもらう。センターに展示している8種類の標本をARとして表示し、一緒に写真を撮影したり=写真、展示物の説明が見える「恐竜ずかん」などを楽しむことができる。

【あわばた大豆】豆腐が好評、新商品開発も検討

あわばた大豆は、古くから神流町で栽培されてきた地域在来種の大豆で、柔らかな甘みとコクが特徴だ。道の駅万葉の里で製造販売している「万葉豆腐」=写真左=は、大豆をパウダー状にして豆乳をつくるおからが出ない方法で製造。一般的な豆腐に比べて味が濃く、香りも楽しめる。豆腐のほか豆乳や豆乳プリン=写真右=も販売。県外の企業などを視察し、新年度は新商品開発も検討する。

【高齢者住宅】特養ホームと連携 一人暮らしも安心

特別養護老人ホーム「シェステやまの花」の北側にあり、昨年6月に入居を開始した。居室は約25平方メートルで、風呂やトイレ、エアコンなどを完備。緊急通報装置を設置し、隣接する老人ホームと連携して対応する。

地域資源活用に手応え神流町長 田村 利男

豊富な森林資源を活用する林業再生プロジェクトの成果が見え始めています。プロジェクトは、林業に携わる人材の確保と育成、安定供給体制の整備、木質資源の有効利用などを目指し、町と神流川森林組合、県が連携して2017年度にスタートしました。組合の生産量は増加傾向にあり、昨年度、収支は4年ぶりに黒字に転換しました。

住宅産業研修財団が主催する伝統的木造建築の技術者教育プログラム「大工志塾(だいくしじゅく)」への協力も森林活用につながっています。プログラムの一環で年に4~5回、当町で実技研修が行われ、参加者が当町の木材を使って三重塔や五重塔を造りました。今では町のシンボルとなっています。

関係人口の増加につながる観光振興も大切です。本年度、道の駅万葉(まんば)の里をリニューアル。神流川を眺めながら休憩できる展望テラスや、地域在来種「あわばた大豆」を使用した豆腐製造設備を導入しました。あわばた大豆を使った豆腐や豆乳プリンが好評ですが、新商品も研究中です。恐竜センターもリニューアルし、食堂や売店を改装。キッズスペースや授乳室を新設しました。新年度は拡張現実(AR)を使った新たな楽しみ方を可能とするアプリを取り入れます。

住み慣れた町に生涯住み続けられるまちづくりや、増え続ける1人暮らしの高齢者への支援を目的とした高齢者向け賃貸住宅「奴郷(ぬごう)団地」が昨年5月に完成しました。現在7人が入居しています。

お年寄りはもちろんですが、全ての世代の方に「住んでよかった」と思っていただける町を目指し、努力と工夫を重ねていきます。