高山村

緑豊かな山々に囲まれた高原にある高山村。のどかな里山の風景は、穏やかでどこか懐かしく、訪れる人の心を癒やす。自然に寄り添った暮らしや、住民の温かな笑顔にひかれて、この村に住みたいと願う人は少なくない。都会を離れ、この地での生活を選んだ人たちを訪ねた。

この村で暮らしたい。
林業会社社長・渡辺悟さん(33)

理想に向け踏み出す

思い描く仕事を目指して一歩を踏み出した渡辺さん

「自分で思い描いた仕事をしたい」。こんな思いから今春、10年ほど勤めた会社を退職し、5月に「Forest Work」を設立した。「不安はあるが、気楽な部分もある。森林で作業しながら、一緒に働ける人を探したり、設備をそろえたりすることは大変。でもそれが面白い」

もともと目指していたのは料理人。調理師免許を取得して村外の飲食店で働いていた。その店の閉店を機に帰郷。友人の紹介で地元の林業会社に就職した。「林業は初めてだった。ただ、体を動かすことが好きだったので、しっくりきたのだと思う。特に樹木を切り倒した時の達成感や高揚感がいい」と話す。

仕事を続けるうちに、自分の思い通りの仕事をしたいという考えが芽生えた。知り合いの村職員の勧めもあり、独立を決意。現在は吾妻森林組合の仕事を請け負い、高山村など主に吾妻郡内で造林保育などに励む。

目指すのは支障木の伐採から造林保育まで全てこなせる会社だ。「両方の仕事を高いレベルでやれる会社は、多くはない」。優れた技術で、どんな仕事も完璧にこなす。そんな会社を目指して、一歩を踏み出した。

飲食店経営・都筑貞喜さん(42)

住民の言葉が励みに

「若い人が村外に出て行くのが残念」と話す都筑さん

村を横切る国道145号沿いに建つ「扇屋」。半世紀ほど前に創業した店は、麺類から定食まで、多彩なメニューと手ごろな価格で地元の人たちやサラリーマンらに親しまれている。

「料理を学び始めた頃は、家に入るつもりはなかった」と振り返る。横浜市や沼田市の飲食店に勤めて、中華料理を学んでいたが、勤務先の事情などで23歳の時に帰郷。父親の手伝いを始めた。そして2年前、正式に店を継承した。

「村では高齢者が増えていて、麺類などが喜ばれる。『おいしい』とか『こういう店がないと困る』といった言葉をいただいた時が一番うれしい」と笑顔を見せる。

長く村で仕事をし、暮らして感じるのは、豊かな自然や温かな人柄の村民と触れ合える環境の素晴らしさ。「消防団の仲間にもよくしてもらっている。人間味があって、都会では感じられない良さがある」。ただ、車を運転できない人にとってはやや不便なこと、働く場が少ないことが心配という。

「大好きな村なのに、働き口がなくて、若い人が村外に出て行ってしまうのが残念。何とか防ぎたい。この店を続けていくためにも、人口を減らさないよう工夫していきたい」と力を込める。

飲食店経営・倉田雅美さん(46)

長年の夢かなえる

「いろいろな方に支えていただいた」と話す倉田さん

「皆さんに支えられて、ここまでやってこられた。本当に感謝しています」。開業5周年を迎えてしみじみと語る。

20代前半、料理を学ぶため村を出た。「いつかは店を持ちたい」と思っていたものの、なかなかチャンスが巡ってこなかった。村外で配送の仕事などをしていた時、空き店舗があるとの話があり、幼い頃からの夢へ挑戦を決めた。

昼間は定食が中心。夜はアルコール類も提供する。店名の「みょうが」は、仏教用語の「冥加」から付けた。冥加は、知らず知らずのうちに、神や仏あるいは菩薩(ぼさつ)などから加護を被ること。「自分一人で何とかなると思っていた時期もあるが、甘かった。そんな時、いろいろな方に助けていただいた。それに感謝しながら続けたい」と話す。

村外で仕事や生活を経験した後に帰郷して感じるのは、人と人のつながりの大切さだ。「久しぶりに戻ってきたけど、亡くなった父の友人だとか、父に面倒をみてもらったとか、いろいろな人に助けてもらった」。都会では感じにくい、こうした付き合いが心地よいという。「何とか続けてきた5年。でも、続けてきて良かった」。これからも感謝の気持ちを胸に客を迎える。

精神科医・田村毅さん(63)

古民家改修し診療所

古民家を改修してクリニックを開設した田村さん(右)

尻高地区の古民家を改修して移住するとともに、自由診療の精神科クリニック「こころの診療室」を開設した。

東京都生まれ。約20年間大学に勤めた後、精神科クリニックを開業した。高山村とは縁がなかったものの、中之条町・四万温泉出身の父親の影響で、子どもの頃から群馬をよく訪れていた。

数年前、移住を考え始めた。北毛地区を中心に物件を探し、同村の移住コーディネーターの協力でようやく空き家を見つけ、移住を決めた。「中山盆地は田畑が広がり、子持山などのなだらかな山々に囲まれている。高山村のそんな雰囲気が気に入った」

古民家を購入後、「お片付けワークショップ」を開催して参加者と共に残されていた大量の家財道具を片付けたり、改修する際に壊した土壁を再利用する「日干しレンガづくりワークショップ」などを開催。以前からの友人や知り合いと、地域住民の交流の場ともなっている。

「初めから古民家を探していたわけではないが、暮らしてみると落ち着く。目指していた診療ができるかもしれない」。40年に及ぶこころの臨床の集大成を実践している。