渋川市
誰もが尊重され、互いに認め合って暮らせる共生社会の実現を目標に掲げる渋川市。民間企業とも連携して、さまざまな取り組みを進めている。今年は、全ての事業に共生社会の視点を取り入れ、障害の有無や性別、世代にかかわらず、誰もが暮らしやすい地域づくりを加速させる。
市政運営の最重要指針
共生社会
「共生社会」とは、障害の有無や性別、世代、国籍や人種にかかわらず、全ての人が人権や尊厳を大切にし、支え合い、生き生きと人生を送れる社会。渋川市は、さまざまな人が分け隔てなく生活し、能力を発揮できる活力ある社会を目指している。
市は2019年10月、東京五輪・パラリンピックの共生社会ホストタウンに登録された。ホストタウンは、海外のパラリンピック選手との交流を通して、共生社会の実現に向けた取り組みを推進する。
登録を機に、市は共生社会の実現を市政運営の最重要指針と位置付けた。新型コロナウイルス感染症という危機に直面している今こそ、「自分らしく、互いに寄り添い、共に生きる共生社会の実現が必要」と訴える。
共生社会ホストタウンに登録された10月を「共生社会推進月間」と定め、共生社会に関する取り組みを集中的に実施している。
49の企業・団体が賛同
共同宣言
市民や民間企業との連携を促すために、「共生社会実現のまち 渋川市」推進共同宣言を行っている。これまでに市自治会連合会や市国際交流協会、群馬銀行渋川支店、北群馬信用金庫など49の企業・団体が賛同。「差別・虐待、暴力を否定し、お互いの人権や尊厳を大切にする」「社会に存在するバリアを理解し、これを取り除くための行動を起こす」など4項目を掲げる共同宣言文に署名している。
宣言した企業・団体にはシンボルマークのピンバッジとステッカーを提供している。
シンボルマーク
全市を挙げた取り組みを象徴するものとしてシンボルマークを制定した。市の花アジサイをモチーフにしたデザインで、水色や青、ピンク、緑などさまざまな色のガクが集まっている様子を、多様な人々が一つになって暮らすイメージに重ねた。市職員はシンボルマークをデザインしたピンバッジを着け、市民らへの啓発に役立てている。
多様な人に寄り添う
パートナーシップ宣誓制度
性的少数者など、より多様な人々に寄り添う姿勢も強く打ち出している。昨年12月に開始した戸籍上の性別にとらわれず、互いを人生のパートナーとして宣誓した二人の関係を市が証明する「渋川市パートナーシップ宣誓制度」もその一つ。
市が交付する「宣誓書受領証」を提示すれば、市営住宅や借り上げ賃貸住宅の入居申請、移住者住宅支援事業での補助金加算など、市単独の行政サービスや手続きが法律婚の男女と同じように可能になる。
宣誓できるのは①互いに成人で、いずれか一方が性的マイノリティーの人②市民または市内への転入を予定している人③互いに配偶者・パートナーがいない人④互いが近親者でない人。
共生実現で地域に元気を
渋川市は、障害の有無や性別、世代、国籍や人種にかかわらず、誰もが個性を認め合い、才能や能力を発揮できる地域・社会の実現に向けて、さまざまな事業を進めています。
市民や市内外の企業・団体と力を合わせて進めようと「共生社会共同宣言」を呼び掛け、これまでに49の企業・団体に宣言していただきました。補助犬トイレの設置や高齢者支援の一環としての移動販売など、宣言した企業・団体の自主的な行動に感謝するとともに、その広がりに手応えを感じています。
何らかのハンディを持つ人が、楽しく、元気に暮らせる地域・社会は、全ての人が楽しく、元気に暮らせる地域・社会であり、そういう地域・社会には多くの人が集まり、活気が生まれます。認め合い、支え合うことで地域を元気にする「渋川型の共生社会」を目指します。
高齢や障害を理由に諦めることなく、誰もが気兼ねなく安心して楽しめる「ユニバーサルツーリズム」。渋川市は共生社会実現に向けた取り組みの一環として、このユニバーサルツーリズムの推進に取り組む。今年度は、まず普及促進に必要な考え方や課題を探るワークショップを伊香保温泉で開催した。障害の有無や年齢、国籍にかかわらず誰もが訪れやすく過ごしやすい観光地を目指す。
同市伊香保町の旅館で先月22日、初めて開催したワークショップには、県や市の職員、観光関係者ら約30人が参加。障害当事者の意見を聞きながら課題を探り、解決の手法を考えた。
コーディネーターを務めたDET群馬の飯島邦敏さんと細野直久さんは、車いすユーザーの立場で発言。宿泊施設や観光名所をインターネットなどで事前に調べる際に、「言葉だけでなく、実際に車いすで利用している写真や動画があるとイメージしやすい」「段差を解消できていなくても、どこに、どのくらいの高さの段差があるのかを伝えることが、その施設や観光地を選ぶ判断材料になる」などと指摘した。飯島さんは「全ての段差をなくすのは難しくても、『お手伝いします』というメッセージがあると相談しやすい」と、心のバリアフリーの大切さにも触れた。
講師の大手旅行会社2社のユニバーサルツーリズム担当者はオンラインで参加した。「現地の情報が重要。観光団体などと連携して情報をどう伝えるかに力を入れている」「バリアフリーマップのほか、障害や病気の特性に合わせた情報を入手できる手段があると便利」などと話し、情報発信の重要性を強調した。
今後、伊香保温泉周辺を車いすで散策して、バリアフリー状況を調査するフィールドワークを実施する。収集した情報は、ユーザーの投稿によりバリアフリーマップを作製できるアプリに投稿し、同温泉周辺のバリアフリー情報をより充実させる。
新年度は情報発信のモデル構築などを予定している。
意識改革の大切さ学ぶ
バリアフリーセミナー
障害による差別や偏見、社会にある障壁の解決に向けて昨年11月、市民らを対象にしたバリアフリーセミナー(DET研修)を渋川市民会館で開いた=写真。
「DET」は障害平等研修の意味。ファシリテーター(進行役)との対話、視覚教材やグループワークを活用して、さまざまな障害を見抜く力を養うとともに、「障害は周りの環境をみんなで変えていくことにより解決していく問題」と意識の変革を図るのが狙い。
当日は障害当事者らでつくるDET群馬の飯島邦敏代表らが進行役を務めた。参加者は車いす利用者の外出場面を描いた絵を見て、社会に存在する障害と捉えた点を指摘し合った。その後、健常者と障害者の世界が逆転した想定のビデオ視聴などを通して、障害への考え方の変化を感じ取った。
特色ある取り組みで交流
ホストタウン
東京2020大会を契機に、大会に参加する国や地域の住民などが、これを受け入れる自治体の人々と交流し、大会を超えたつながりを未来へ向けて築いていく取り組み。
モーリタニアは日本から1万3千キロメートル離れたアフリカ大陸西部に位置し、ほとんどが乾燥地帯。「砂漠の国」モーリタニアと「水と緑といで湯の街」である渋川市は、共に水資源を大切にしているとして、交流を図る。
そして障害のある海外の選手たちを迎えることをきっかけに、ユニバーサルデザインのまちづくりや心のバリアフリーに向け、特色ある総合的な取り組みを実施する共生社会ホストタウンとして、ニュージーランドと交流する。
同国は日本から約9千キロメートル離れた南半球にある観光立国で、市はファカタネ市と友好都市協定を締結し、20年以上にわたり親交を深めている。
理解深める講座・講演会
ホストタウン相手国への理解を深めようと、市は講座や講演会を開いている。
昨年10月9日には、ニュージーランドとの交流を図る市民向けの講座を同市役所で開催。20人が同国の国旗や国歌を学んだ=写真上。NPO法人世界の国旗・国歌研究協会の吹浦忠正さんと新藤昌子さんが講師を務め、オンラインで進めた。
同25日には、同市の市民会館でモーリタニアへの理解を深める講演会を開いた。エル・ハセン・エレイエット特命全権大使と、日本モーリタニア友好協会の東博史会長が両国の関係について講演=写真下。大使はモーリタニアの観光資源や食文化などを紹介した。