昭和村

谷川岳や周囲の山々を背景に野菜畑のパノラマが望める昭和村。寒暖差を生かした多彩な作物が育てられ、道の駅「あぐりーむ昭和」を中心に交流が広がっている。豊かな野菜や果物を生かして起業や情報発信に挑戦する人を村や村商工会の創業塾が強力に応援している。夢をかなえ、人とのつながりを大切に暮らす人たちを訪ねた。

夢への挑戦 実現を応援

素朴な味 細く長く届ける 山口直巳さん

福 田舎のおやつ工房(2020年起業)

蒸(ふ)かし器から勢いよく湯気が上がり、6畳ほどの工房に米こうじ酢の香りがいっぱいに広がる。山口直巳さん(55)は自宅の隣に「福 田舎のおやつ工房」を作り、昨年7月、ふかしまんじゅうの専門店をオープンした。

持病の悪化をきっかけに、長年勤めた福祉施設を2年ほど前に早期退職した。そのころ、回覧板で村商工会の創業塾のちらしを見て「勉強しよう」と11、12月の講習会を受講して卒業。販売や経営など内容は難しかったが、その後も復習を続けた。「今も商工会の人がいろいろ手助けしてくれます」と感謝している。

家でできる仕事は何かを考え、母がおやつに作ってくれた、直伝のふかしまんじゅうで創業することを決めた。定番のあんこをはじめ、ゴボウや白菜、サツマイモ、小松菜やリンゴなど、地元の旬の食材を使い、昔ながらのふっくらとしたまんじゅうを作る。店頭や予約販売のほか、道の駅「あぐりーむ昭和」の直売所や昭和の森ゴルフ場、古沢りんご園でも限定販売していて、思っていたより順調だという。

オープン当初は戸惑いもあったが、今はいろいろな人と関われて「楽しいです」とほほ笑む。みそ皮あんこや白あんとカスタードクリームを使った若者向けの新作にも取り組んでいる。「近所の農家や古沢りんご園さんに、ずっとお世話になってきました」と振り返る。恩返しも兼ねて「多くの人とのご縁を大切に、これからも細く長く素朴な味わいを届けたい」と話す。

感謝を込めてパン作り 加藤夏美さん

小麦工房なっちゃん(2019年起業)

みそパンやしっとり食パンのほか、季節に合わせた商品を販売する「小麦工房なっちゃん」の店主、加藤夏美さん(32)は、2年ほど前に開業。幼い頃からの「自分の店を持つ」夢をかなえた。

専門学校でパンや菓子作りを学び、企業の製パン部門に勤務。独立を考えていた2018年に知人の誘いで沼田の名刺交換会に参加。そこで昭和村商工会の職員から創業塾への参加を勧められ、講習会を受講した。「経営に必要な知識を学べて幅広い人とつながれたことが財産になりました」と話す。その後、商工会に起業の相談をすると、資金の借入先から確定申告までサポート。パンの新作を持って意見を聞きに行ったこともある。今でも塾で出会った人たちが、パンを土産用に使って口コミに協力してくれることに感謝している。

商工会の村民アンケートに「焼きたてのパン屋がほしい」という要望があった。村内唯一のパン工房として開業当初、店頭販売の予定はなかったが、「地元の人や子どもたちが気軽に買いに来てくれるので役に立っているのかな」と顔をほころばせる。感謝の思いをポイントカードに「見える化」した。季節によって地場産の野菜や果物などを具材に使い、現在は道の駅「あぐりーむ昭和」や沼田市の街なか天狗プラザJA直売所、やさいの杜でも販売している。

「今後は新型コロナの影響を考え、冷凍設備を用意してネットでの注文販売にも挑戦したい」と意欲的だ。

村の魅力高める力に

地域おこし協力隊 伊藤真作さん

伊藤真作さん(28)=写真右=は、田舎旅行が趣味で村おこしに興味があった。大学卒業後、地元の神奈川県藤沢市でコックとして働く中、名物料理の開発が地域の盛り上げに役立てるのではと気付き、食材の宝庫、昭和村の地域おこし協力隊第1号として、多彩な活動に挑戦してきた。

道の駅「あぐりーむ昭和」で案内業務をしながら生産量日本一のコンニャク芋で作ったこんにゃくと大根、マイタケの天ぷらを盛り付けた「こんころまいうどん」を半年掛けて考案。人気メニューの一つになった。また、村の飲食店全店を元気にしようとスタンプラリーを企画、外出自粛中はテークアウトのサイトを村のホームページ(HP)に開設し、回覧板用にちらしも制作した。昨夏はゲーム感覚で楽しむイベントをトウモロコシ畑の迷路で企画。PR動画も作ると、約9千人が訪れた。

1年ほど前から、野菜ソムリエの資格を生かして「やさい王国のとれたてたより」を毎週、制作している。保存方法や下ごしらえ、レシピをまとめて村のHPや道の駅の直売所に掲示して野菜のPRに役立てている。また、色も形も多彩な野菜で花束を作るイベント「べじたば」を企画。参加した子どもたちが、独創的な作品を仕上げたという。

村外の協力隊とも積極的に交流し、3月末の任期終了後も村に住み続ける。「村の応援で自由に活動できて面白かった」と振り返り、「人と人の距離が近い村が大好き。これからもできる範囲で農業と観光や飲食をつなぎ、村の魅力を高める力になりたい」と話す。

「元気な村」へ 活躍後押し昭和村長 堤盛吉

「みんなでつくろう元気な昭和村」をスローガンに、昨年から第5次総合計画の後期基本計画がスタートしました。
令和3年度の主な事業は、役場新庁舎の建設工事、子育て世代の負担軽減を図るための誕生祝金の創設や、小中学校の給食費の軽減等を行います。また、創業支援事業の継続や消防団員の報酬引き上げなど、さまざまな分野の人が活躍できる支援も行います。