富岡市
「世界遺産の街」のイメージが定着している富岡市。富岡製糸場では西置繭所の保存整備工事が終了し、グランドオープンした。製糸場前には「旧韮塚製糸場」、市役所近くには県立世界遺産センター(セカイト)がオープン。絹産業遺産関連の施設整備が進み、周遊観光活性化への弾みとなりそう。首都圏からのアクセスの良さや豊かな自然環境にひかれ、移住する人も着実に増加。笑顔と活気あふれる街へと近づいている。
観光 そぞろ歩き 楽しい街並み
西置繭所(写真①)では2015年から保存整備工事を実施。耐震補強を施したほか、ギャラリーや多目的ホールなどを設けた。ギャラリーには、製糸場で保存してきた資料を常設展示(写真②)。グランドオープンを記念して10月31日から「PIECE OF PEACE『レゴ®ブロック』で作った世界遺産展PART―4」を開催。富岡製糸場をはじめ、世界28カ国の世界遺産などを表現した作品が並ぶ。
製糸場正門前の「旧韮塚製糸場」(写真③)は、富岡製糸場建設時に資材を調達するなどした韮塚直次郎が1876年10月に創立し、79年ごろまで操業していた民間の器械製糸場。明治初期~前期、富岡製糸場を模範として全国に約200カ所の製糸場が建てられたが、韮塚製糸場は地下の遺構も含めて、現存する唯一の建造物とされる。建物の大部分や繰糸機を並べた跡などを保存・整備、内部には詳しい資料を展示している(写真④)。
本県の世界文化遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」を紹介するガイダンス施設が市役所近くの「県立世界遺産センター(セカイト)」だ(写真⑤)。世界遺産としての価値を分かりやすく伝える迫力のあるガイダンス映像や構成4資産の特徴、見どころ、関係性、最新情報を発信しているほか、県内の絹産業関連文化財も紹介している。
同センターと富岡製糸場、旧韮塚製糸場の周辺には、製糸場が「現役」だった頃の面影が残る。秋の一日、そんな面影を探したり、繭や生糸にちなんだ土産、飲食を楽しみつつ、そぞろ歩きを楽しんでみてはいかが。
移住
定住
「古民家の活用例 見せたい」
妙義山が間近に見える県道沿いにたたずむ小さな店「珈琲焙煎所 月とゆふづつ」(富岡市妙義町岳)。大きな窓から田んぼや畑が見渡せる明るい店内に、何種類ものコーヒー豆が並ぶ。東京から移り住んだ西尾祐諄さん(61)が、農業用倉庫を改装して今年3月にオープンした。
「都内で不動産関係の仕事を営んでいた。古民家を再生したカフェやゲストハウスなどをプロデュースしてきたが、いつか自分でやりたいと思っていた」。物件を探す中、写真を見て気に入り、実際に訪れて即決した。倉庫の向かいにある築135年の古民家を購入。3カ月は市の「まちなか移住体験住宅」に滞在して、倉庫の改装に取り組んだ。
現在は週に3日間営業。改装作業と母屋の片付けを進めつつ、農業を学んで観光農園を併設するため高崎市の「ぐんま農業実践学校」に通っている。「母屋は1階をカフェ、2階をゲストハウスにしようと考えている。古民家をこんな風に活用できるということを、地域の皆さんに知ってほしい。妙義神社も近いこの地域は、1軒何かができれば変わっていくと思う」と西尾さん。
店には地元の人たちも頻繁に訪れ、コーヒーを試飲しつつ、おしゃべりを楽しむことがよくあるという。「いろいろな人たちが、気軽に集まれる場所になれば」と笑顔で語る。
「珈琲焙煎所 月とゆふづつ」の営業日などの問い合わせは同店(0274-67-7880、インスタグラムアカウントはtsuki.to.yuzutsu)へ。
奨学金返済を支援
富岡市への移住定住を促すため、市はさまざま支援策を打ち出している。
その一つが今年スタートさせた「市若者定住促進奨学金返還支援事業」。大学などを卒業して市に定住する人の奨学金返済を助成する制度だ。助成額は1年間の上限を10万円とし、5年間まで補助。対象は、①2020年3月1日~29年3月31日に大学や短大などを卒業②毎年10月1日を基準日として市内に住所がある③5年以上定住する予定―といった条件を満たす人。主に就職したばかりで返済への負担が大きい人たちの利用を想定する。申請期間は11月1日~12月28日。
詳細は市企画課(0274-62-1511)へ。
万全の態勢で出迎え
富岡製糸場の国宝「西置繭所」の保存整備工事が完了し、今月3日にグランドオープンいたしました。これを記念して、「PIECE OF PEACE『レゴ®ブロック』で作った世界遺産展PART―4」が31日から開催されます。新型コロナウイルス感染症は依然として終息しておりませんが、さまざまな活動の制限が解除されつつあります。感染症対策に万全を期すとともに、多くの皆さまの本市へのお越しをお待ちしております。
東京オリンピック・パラリンピック大会を契機として「共生社会ホストタウン」に登録されている富岡市。障害の有無、国籍、性別、年齢にかかわらず誰もが生き生きと暮らせる社会を目指して公共施設のバリアフリー化を進め、大会に向け子どもたちがパラリンピック種目を体験するなど事前学習を続けてきた。本年度内にバリアフリーマップの作成、研修会などを行い、「共生の心」が市民により広く深く根付く取り組みを加速させる。
同市は東京五輪・パラリンピックで市と縁の深いフランス、ミクロネシア連邦のホストタウンとなり、さらにパラリンピックに出場するフランスを相手国として共生社会ホストタウンにも登録された。
共生社会を目指す取り組みのベースとして市役所、上州七日市駅など老朽化した公共施設の建て替えではバリアフリー、ユニバーサルデザインを導入。2022年度完成を目指す市子育て健康プラザは、誰もが安全で快適に利用できる利用者に優しいユニバーサルな施設に整備する。
このほか市は乗合タクシーの一部を車いすのまま乗れる車両にしたり、手話を言語として位置付ける手話言語条例の普及を図ったりするなど、設備や制度の面から社会的弱者が暮らしやすい環境を整えてきた。
一方で市民を巻き込んだ活動も行われ、昨年は県の企画で富岡製糸場周辺のバリアフリー状況を障害者や地元関係者、高崎商科大の学生たちが調査。車いすで店や通りに繰り出して気づいたことをスマートフォンのアプリ「WheeLog!(ウィーログ)」に投稿した。市は本年度、富岡製糸場周辺のバリアフリー情報、多機能トイレ、おむつ交換台の有無などを盛り込んだバリアフリーマップを作成する。
ボッチャやゴールボールなどパラリンピック競技の体験会では、子どもたちが楽しみながら障害者スポーツを学んできた。今後、市民や市職員を対象に研修会を行うとともに、啓発情報をきめ細かく発信して「心のバリアフリー」を全市に広げる。
共生社会づくりは、誰にも安心して訪問してもらえるまちづくりでもある。東京大会でフランスとミクロネシアの選手を迎え入れ、市民と交流してもらった後、市は共生の取り組みを継続して次の24年パリ大会につなげていくことにしている。
交流で相互理解を
富岡市の国際交流を支えるフランス生まれの市国際交流員、ヴェロニック・ムーランさん(24)に日仏の社会の違い、東京オリンピック・パラリンピック大会を見据えた共生社会づくりについて聞いた。
「人が優しくて温もりがあり、豊かな自然に囲まれている。それに歴史が詰まった世界遺産があることが魅力」。富岡市に来て1年余り。市富岡製糸場課に所属し、世界遺産の中で仕事を楽しんでいる。「製糸場についていろんな資料を読んで勉強した。広い空間がフランスの大聖堂に似ている東置繭所の2階が好き」
東京大会においては選手と市民の交流を通訳として支える予定だ。今後、フランスの文化について子どもたちに教えたり、フランス料理を学校給食に出したりする計画もある。
共生社会の観点から日本で気になったのは、先輩・後輩の関係と学校の制服だという。年齢差を気にしないフランス人に対し、日本人は人を「上」か「下」かに位置付けるのが一般的。「それにより、同じグループでも自然と階層ができてしまう」と指摘する。
もう一点の制服はフランスの学校には基本的にないため、子どもの頃は憧れていたが、今は見方が変わった。「女の子はスカートと決めつけるのではなく、どの学校でもスカートかズボンを選べる環境ができればいいと思う」
一方で視覚障害者用の誘導ブロックや音を出す信号機などの設備はフランスにはなく、日本の学校で手話クラブが増えるなど「障害者に対するフレンドリーな姿勢に感動した」という。
フランス革命で掲げた「自由・平等・友愛」の精神のもと、フランスは独自の多文化共生社会をつくり上げてきた。しかし、文化や言語の違いから生じる相互無理解が差別をもたらすこともあると危惧する。
「人間は知らないもの・知らないことを恐れる。だからこそ、交流して理解し合うことが大切。東京大会では、富岡でもさまざまな交流が生まれる。共生社会につながる取り組みを母国で開かれる次のパリ大会に引き継いでいくお手伝いができればうれしい」