上野村

上野村は本県の最西南端に位置する人口約1150人の静かな村。総面積の9割以上を占める森林に象徴される大自然や、都会とは異なる山村ならではの豊かな生活を求めて移住する人が相次ぐ。そんな村で生まれた特産物が木工品とイノブタだ。今、村が誇る特産物の製造や販売を受け継ぎ、さらに発展させようと、20~30代の若い世代が地域おこし協力隊員として奮闘している。

伝統産業に新たな風

天然素材を巧みに活用

緑豊かな上野村の天然素材を生かした特産品が木工品だ。歴史はそれほど長くはないが、家具などの大物からインテリア、おもちゃ、茶わん、アクセサリーなどの小物まで種類が豊富。多数の木工作家が工房を構えるほか、上野村森林組合がさまざまな商品を提供している。

イノブタは雄イノシシと雌ブタを一代交配で掛け合わせ、両方の良いところを取り込んだ肉質と脂身のおいしさが特長。1960年代に生産を始め、最盛期には年間400~450頭を出荷していた。一時、生産が絶えかけたが、2009年に飼育施設「上野村いのぶたセンター」を開設。現在はJA上野村が事業を受託、年間約250頭を出荷している。

未来を創り  未来につなげてほしい

上野村長 黒澤 八郎
上野村長

上野村は、「挑戦と自立」を掲げ、今、自立から持続へつなげようとしています。その村づくりを支えているのは、多くの移住者の力です。

上野村の伝統産業をつなぎ、特産品を守ることに、新たな風が吹き込まれました。

キラリと光る星があってこそ、村は輝けます。村の希望の星を紹介することができました。

上野村には一人一人の居場所、立ち位置があります。そんな上野村で、自らの未来と、住まう場所の未来をつくっていきませんか。

皆さまをお迎えいたします。

イノブタ生産 唐沢 百香さん(20)

「やりたい仕事に満足」

「養豚の軸は同じでも、イノブタは別の生き物。3カ月くらい、ものすごく混乱していた」。地域おこし協力隊員を委嘱され、「上野村いのぶたセンター」で働き始めたのは2019年4月。今では同センターの戦力として活躍している。

出身は東京都武蔵野市。動物が好きで、動物の誕生から死までの全てに関わりたいとの思いから畜産を志望。都立高校で唯一、畜産を学べる都立瑞穂農芸高校に進学、養豚を学んだ。

在学中、生徒有志による「東京しゃも」の商品化プロジェクトで、同センターの小池銀太場長(35)の指導を受けたことなどが縁で、センターで働くことになった。

仕事は餌やりと畜舎の清掃、種付けや分娩ぶんべん、治療など。毎日の仕事の中で心掛けているのが観察だ。「餌をやったり、清掃しながら、尿の色やフンの形状、食欲などに気を付けている」。小池場長は「与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら考えて、実践している」と評価する。

村で働くようになり、生活環境は大きく変わったが、「やりたかった仕事ができている。だからその場所がどんな所でも、それほど気にならない」ときっぱり。充実した日々を送っている。

木工品 岸 美貴さん(33)

「将来はこの村に工房」

動物をモチーフとしたおもちゃや家具、それらのパーツがところ狭しと並ぶ工房。材料の板を工作機械にセットしては、手際良く加工していく。

出身は埼玉県桶川市。昨年11月に地域おこし協力隊員を委嘱され、木工作家の大野修志さん(60)が主宰する「木まま工房」で学んでいる。協力隊に応募する前は、建設会社で主に事務を担当。ものづくりに興味があり、いずれは挑戦したいと考えていたという。「特に木工に魅力を感じていた。以前、遊びに来た時に『いい所』と思っていた上野村で、協力隊を募集しているのを知り、応募した」

実際に木工品を作った経験はなく、ゼロからのスタート。「1年やってみたけれど難しい。覚えなければならないことが、たくさんある」と控えめ。工房の商品を作りつつ、最近は動物の顔をデザインしたバターナイフなどのオリジナル作品にもチャレンジしている。「絵を描くのが好き。それを生かしたものを作ってみたい。将来はこの村で工房を持ちたい」と夢を語る。

大野さんはこうエールを送る。「3年で一通りの技術は覚えられると思う。ただ、その後は自分の個性をどれくらい表現できるかが問われる。頑張ってほしい」

木工品 逢見 祥平さん(31)

「挽物で生計立てたい」

「木材業界で働いていたので、木に関する知識はあったけれど、作ってみると難しい」。地域おこし協力隊員を委嘱されたのは今年4月。工房で過ごした8カ月間をこう振り返る。

さいたま市出身。祖父が陶芸家で、食卓にはいつも祖父の器が並んでいた。そのためか「いつかはものづくりを」との夢を持っていた。ただ、「いろいろなことを学んでおきたい」と大学卒業後は建材メーカーに就職。木材に触れる仕事に携わる中、木工に興味を持ち、挽物ひきものに引かれた。さらに、動画投稿サイトで「今井挽物工芸社」を営む今井正高さん(66)の動画を見つけ、村が協力隊員を募集していることを知り、応募した。

挽物は木材を電動ろくろに取り付け刃物で削って作るが、刃物は自分で作らなければならない。「研ぎ方によって削れたり、削れなかったり。製材も自分でやる」。そうした仕事を一つ一つ習得している。

「まずは消費者に受け入れてもらえるレベルの商品を作れるようになること。協力隊の任期が終わる3年後には挽物で生計を立てられるようになりたい」。今井さんは「ものづくりが好きなのがよく分かる。モノになる」と期待を寄せている。