高崎市

平地から榛名山麓の山間地域まで多様な地形条件に恵まれた高崎市。米、麦、野菜、果物など多彩な農産物が生産され、それを生かした加工品も数多く作られている。市は「地産多消」を掲げ、高品質な高崎産農産物を国内だけでなく世界に発信しようと力を入れている。

若い人に 農業の魅力伝えたい

高崎の農業振興について熱く語る富岡賢治市長

─高崎は古くから交通の要衝であり、商都というイメージがありますが農業も盛ん。高崎の農業について。

富岡市長 高崎には全国に誇れる農産物がたくさんある。箕郷・榛名地域のウメ、榛名地域のナシ、プラム、モモ。群馬地域の国分にんじんと国府白菜、チンゲンサイやキュウリといった野菜もある。どれも高品質で自慢の逸品だが、残念ながら全国的な知名度が低い。これは高崎市だけでなく、群馬県全体にも言えることだがブランド力が弱く、これを上げる必要がある。都内の百貨店、老舗果物専門店では1個1万円のモモが販売されているが、高崎の果物はそうしたところで扱ってもらえるものに届いていない。決して品質は劣っておらず、都内の百貨店や老舗果物専門店に販売してもらえるような「高崎ブランド」を築かなければならないと思っている。

─高崎市は「地産多消」という考え方を推進している。

富岡市長 「地産地消」は当たり前で、地元だけでなく、高崎産の農産物を首都圏や海外でもより多く消費してもらうため「地産多消」という考えを打ち出した。まずは、地元の高崎で販売するため、駅前商業施設の高崎オーパに高崎産農産物を常時販売する「高崎じまん」を出店した。ここへの納入は、農作業に余裕が持てない新規就農者や配達まで手の回らない家族経営の農家でも出荷できるように、毎日、午前・午後一回ずつ各地域の集荷施設を回る集荷便を用意しており、そこまで持ってくれば出荷できるよう工夫している。

─市外への売り込みについては。

富岡市長 首都圏をはじめ県外への売り込みとしては、食のイベントなどに参加して高崎産の農産物、加工品のPRに力を入れている。農業者を総合的に応援する支援制度も設けている。梅ジュースの瓶の形や野菜を入れる段ボール箱などパッケージデザインを見直し洗練されたものに変更する費用を助成したり、ウメや果物を使った新たな加工品の開発も後押ししている。こうした「農業者新規創造活動事業」により、農業者の新たな取り組みを支援することで、農業後継者の確保や新規就農者増につながることも期待している。

また、首都圏のスーパーなど高崎産の農産物を取り扱う小売店に対して、売り上げの5%を還元する制度も整え、販路の拡大に貢献している。

─農産物や加工品の海外への売り込みを加速させている。

富岡市長 3年前からアジア経済の中心地・シンガポールでのフェアや展覧会に参加し、高崎産の農産物や加工品を出品したところ、売れ行きがよく好評を得られた。本格的に輸出の道を探ったが、シンガポールで恒常的に販売するためには、拠点となる会社が現地に必要だという結論に至った。シンガポールには、高崎をロケ地とした映画作りを通しての人脈もあり、今年8月に現地法人「高崎トリニオン」を設立した。販路開拓と高崎産の農産物、加工品の輸出促進を担う拠点で、すでに現地の高級果物店で販売が行われることが決まっており、ミシュランの星つきのレストランでも高い評価を得ている。今後も高級店を中心に売り込みにチャレンジしていく。ウメの輸出もしたいところだが、ウメを食べる習慣がないようで、梅ジュースや梅酒などの加工品での輸出や、新たに5個で2千円というような高級梅干しを開発しているので、そうしたものの輸出も探っていきたい。シンガポールをはじめ東南アジアで、高崎産の農産物・加工品が高崎ブランドとして高い評価を得られたら、その評価を“逆輸入”し、海外で高まったブランド力で、都内の百貨店や老舗果物専門店で販売してもらえるようになることが目標だ。

─高崎の農業振興と将来像について。

富岡市長 農業の担い手である後継者不足は高崎も深刻だが、新たに参入した若い農業者にはビジネス感覚を持ち、世界に高崎産の農産物を売っていこうという頼もしさもある。農業者新規創造活動事業などで支援していくのに加え、新たに農業に参入してもらうため農業の魅力を伝えていく高崎ブランド・シティプロモーションも始めた。「絶メシリスト」に続くもので、動画投稿サイト「YouTube」に農業系チャンネル「農Tube高崎」をスタートさせ、インターネット上の動画を通して、若い人たちにも農業の面白さ、魅力あふれる職業であることを伝えていきたい。高崎ブランドを築くのは難しいことだが、近郊農業の振興という、モデルケースをこの高崎で浸透させ、都市も農業もウイン・ウインな関係になるよう農業者を応援していきたい。

栽培と経営学び、 イチゴで人を笑顔に 新規就農から ステップアップ

近い将来、もう1棟ハウスを増設し、直売所をリニューアルしたいと語る常盤翼さん

常盤翼さん(高崎市箕郷町)はサラリーマン家庭に育ったが、農業に興味を持ち農林大学校に進学。「努力次第で成果が出る農業の面白さに目覚めた。中でも、食べた人を笑顔にできるイチゴにひかれた」ことから、卒業後、先進的な取り組みを続ける同市の金井いちご園で2年間研修した。

栽培はもちろん売り方も含め、師匠から全てを吸収する覚悟で日々を送り、2017年春独立した。公的な補助制度なども活用しつつハウス1棟15アールからスタート、3シーズン目を迎える今、徐々に信用を築き、着々と設備投資を重ねている。農園の一角には直売所も設置。現在の生産量は約5トンだ。「直接、お客さんと対面して売ることにこだわりたい。品質は好評」と表情を崩す。また「農業にはゴールがないからこそ、やりがいがある」と話す常盤さんは高崎トリニオンによるシンガポール輸出にも挑戦。目下の目標は群馬県いちご品評会で知事賞を受賞し、師匠に近づくこと。さらにハウスを増設、規模拡大し、観光農園や6次産業化にも挑戦したいと意欲を燃やしている。

販路拡大へPR効果大 出荷作業の負担軽減

広大なナシ園を背景に、笑顔で撮影に応じる富岡光行さん(左)と富沢貴洋さん

高崎市下里見町で果樹園を経営する富沢貴洋さん(カネカ果樹園)、富岡光行さん(富岡農園)は、ともに名産のナシを中心に、プラムやモモ、ブルーベリーなど多品種を生産し、観光農園と直売所の双方向で展開中だ。

2人は、高崎オーパ1Fの「高崎じまん」にも果樹を出品している。富沢さんは「いかにおいしそうに高級感を出すか、パッケージの重要性がよく分かった」と語るように、直売所を訪れるリピーターとは異なる売り方を学んだ。一方、富岡さんは「認知度の低いアンズを広く知ってもらう良い機会となった。今後は果実の加工品にも取り組みたい」と話す。両園ともに高崎オーパで購入したのをきっかけに、その後直売所を訪れる人が増えているという。そのために、できるだけ大きく見栄えの良い品物を厳選して出荷しており「PR効果は大きい」と口をそろえる。

出荷作業は市内に設置された集荷拠点にパッケージングした商品を持ち込み、備え付けのバーコード印刷機から名前と金額の入ったバーコードシールを印刷して、シールを貼り付ければ完了。1日2回集荷されるというシステムだから、農家の負担も大きくない。

2人は「高崎じまん」で新たな販路を開拓し、さらに高崎トリニオンでのナシ輸出にも挑戦中だ。

高崎ブランド勢ぞろい

ナシや野菜が並ぶ店内

「高崎じまん」は一昨年10月にオープンした高崎オーパ1Fにあり、高崎観光協会が運営する。高崎産の採れたて野菜や果物から始まって、スイーツや加工品などが盛りだくさん。おいしいものだけを厳選したラインナップで、高崎ブランドを盛り上げるためのコーナーだ。

ここで出品される農産物は、「高崎ブランド農産物を育てる会」による厳しい出荷基準をクリアし承認を受けた農業者が生産した良質なもののみ。「高崎じまん」には一度食べたらやめられなくなるほどの「おいしい」が集められ、今まで知られていなかった農産物でも、そのおいしさから新たなブランドとして広まるステージでもある。高崎産農産物を素材にした料理が楽しめるCAFE高崎じまん(同7F)も見逃せない。

高崎トリニオン シンガポールに現地法人、 海外展開を促進

開所式に出席した関係者ら

高崎市は、積極的な農産物のPR活動や商談会出展を重ね、ブランド力向上を図るため他市に例を見ない助成制度を創設し、生産者の支援を行っている。さらに海外での販路拡大を図るべく、アジア諸国のハブ、シンガポールに着目。3年前から現地での食イベントに参加し、輸出の可能性を探ってきた。

そして、市特産のウメや野菜、果物など高品質な農産物の輸出を後押しすべく8月1日にスタートしたのが高崎トリニオン。同国で市内産農産物のPR・販売事業を運営するため、現地法人として設立された高崎産農産物を取り扱う法人だ。経験豊富なスタッフが常駐し、高級百貨店・スーパー・ホテル・飲食店などへの営業展開をはじめ、プロモーション活動を行う。既に倉渕地域の陣田みょうがはミシュランの星を獲得したレストランへ納入し、榛名地域のジャンボ梨は高島屋の高級果物店や大手スーパーで販売することが決まっている。

きめ細やかで継続的な支援が高崎トリニオンの最大の強みのひとつ。有名飲食店と高崎産食材のコラボレーション企画を定期的に実施でき、フードビジネスの栄枯盛衰が速い同国において食トレンドを牽引できるような戦略が可能だ。

農業者新規創造活動事業 ゆあさ農園  梅加工品のブランド化成功

加工所で作業中の湯浅直樹さん(右)と妻の弘子さん

高崎市は、農業者の所得や雇用を増大し地域活力の向上を図るため従来の補助制度を再構築し、地域資源を活かした6次産業化や農畜産物のブランド化などを図る総合的な補助制度を2015年度に創設、以降予算化を継続している。6次産業化推進事業補助やブランド商品開発事業補助、地元産農畜産物消費拡大促進補助、高崎農業の将来を考える研究補助、農畜産物輸出拡大支援事業補助などのメニューがある。

6次産業化推進事業補助などを活用し、次々に加工品のブランド化に成功しているのが、ゆあさ農園(高崎市上里見町)だ。同園では、化学合成農薬や化学肥料、除草剤などを使用しないウメづくりを実践。加工品も手がけ、認定の厳しい有機JAS認証において、有機農産物、有機加工食品を同時に取得した。

1993年に同園を父から継承した湯浅直樹さんは、長い歳月をかけて無農薬のウメづくりに関するノウハウを蓄積。梅干しなど加工品製造にも着手、市の補助制度を利用し、加工施設の充実や商品開発を重ねた。現在、20年熟成梅干しや梅干しを素材にした調味料など、合計で約20種類の加工品を手がけ、常に数種類の新商品を開発中だ。最近では、バレンタイン用パッケージの梅干しも開発。東京五輪に向け新商品開発も進む。「梅づくりは好不調の波が大きいが、加工販売により売上が平準化でき収入も安定する」と、湯浅さんは加工品展開のメリットを語る。

同農園の加工商品は、北海道から九州までの、主として自然食品販売店などに流通。県内では「高崎じまん」や関越道、上信越道などのサービスエリアでも販売中だ。市が参加するシンガポールでのイベントなどへ出品しているほか、ジェトロ群馬からの誘いを機にフランスへの輸出も始まり、今後の海外展開も期待される。

『農Tube高崎』 農作業の感動体験発信

アップされた農Tube高崎の1シーン

高崎市が発信するシティプロモーションの一環で7月にスタートした『農Tube高崎』は、農業素人の俳優、富井大遥と手島実優の2人が高崎市の農業の魅力を伝える農業系YouTube。高崎市で生産される農作物にフォーカスし、農業に携わる人の話、プロならではの技術に加え、2人が実際に農作業や農作物を用いた料理づくりにチャレンジするなど、多彩なコンテンツを発信中だ。「農家の相棒・ヤンマートラクターに乗って初土耕!」「【感動】枝豆ジェラート!?作って食べてみた」「トマトで作る絶品ピクルス作り!!」「これがホントの!リアル農業ライフさつまいも編」などをはじめとするコンテンツが続々アップ中。YouTuberを務める2人が、楽しく興味深く視聴者を農業に誘う。笑いと感動のある農業系YouTubeとして注目を集める。

『農Tube高崎』https://www.youtube.com/channel/UCKKk2ZvfTJqFyCChKtSugFQ/featured

高崎市農業まつり 16・17日にもてなし広場

多くのブースでにぎわう会場(資料写真)

今年で33回目を迎える高崎の秋を代表する恒例イベント「高崎市農業まつり」が、11月16、17日の両日(10~15時)、高松町のもてなし広場で開催される。高崎産の農産物を堪能するとともに、自然の恵みに感謝し、食の大切さを考える場。生産者と消費者が触れ合う絶好のチャンスでもある。

野菜や果物など農産物や加工品の販売に加え、試食や体験イベント、ステージイベントなどでにぎわう。農業者新規創造活動事業の補助制度を活用し、農産物の加工やブランド化により生産された加工品コーナーは要チェック。高崎産小麦を使用した麺や市内産豚肉、野菜を使用したオリジナル麺料理が楽しめるぶためんストリートも楽しみだ。

高崎市では優れた農産物のブランド化の推進に加え、「農Tube高崎」や海外輸出の拠点である高崎トリニオンの設立など販路拡大につながる多様な取り組みを実施中だ。いままさに盛り上がる高崎の農業の現状を感じ、高崎育ちの逸品の数々を満喫できるイベントにぜひ足を運びたい。