みなかみ・ 北山さん 宿泊先確保に奔走 農村体験受け入れピーク

チェーン除草機を引く桂月さん(中央)を見守る郁人さんと瑠那さん

山の草木が青々と茂る季節を迎えたみなかみ町藤原。夏の北山家は登山や祭りの準備、田畑の仕事など、やることは尽きない。酷暑にあえぐ平野部とは対照的に、涼しく過ごしやすい気候に郁人(44)は「クーラーは必要ない。扇風機をかける日が何日かあるくらい」と笑う。この日は田んぼで外の作業だが、熱中症の心配もほとんどない。長男の桂月(12)は急いで短パンに着替えて、田んぼ作業の準備を整えた。

民宿の使われていない水田を他の移住者と協力して借り、稲を育て始めた。自然体験や農家民泊を紹介してきた郁人にとっても、自分で稲を管理するのは初めての経験で、自然と気合が入る。家族の誰よりも先に田んぼに入り、稲の間に生えた雑草を手作業で取り除き始めた。

後に続いて、桂月と長女の瑠那(10)、妻の路加(47)も田んぼの方へ歩いてきた。家族の足元にはペットのウサギのフジワラサチオも一緒だ。雲で日が隠れ、外での作業にはちょうどいい陽気。「うおっ」と田んぼの泥に足を取られながら、桂月と瑠那はチェーン除草機を引っ張り、底の細かい雑草を除いた。

田舎暮らしでは、住民同士の助け合いは不可欠だ。地元の草刈りもそれぞれの家が行うほか、地域で協力して行うところもあるが、住民の数が減っているため、一人一人の負担は増えている。一方で、だからこそ、地域とのつながりの強さを実感する場面でもある。初めて挑戦する稲作は家族にとって、仕事やプライベートでも接する機会の多い農家の気持ちを理解する一助となっている。

7月末は都内を中心に中学生の林間学校の最盛期だ。民泊や農業体験の受け入れを仕事にする郁人にとって、書き入れ時である半面、同時に500人近い生徒が日本の伝統的な生活体験を通し、農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」を行うため、受け入れ先の確保が大仕事となる。100軒ほどの農家の協力が必要で、1軒1軒とのやりとりだけでも多くの時間がかかる。高齢化の影響で体調を崩してしまう農家もあり、確保は容易ではない。

郁人は「既に受け入れをしている人に紹介してもらったり、新規の人への地道な勧誘しかない」と、人と人とのつながりの大切さをかみしめる。観光シーズンを迎えたみなかみ町で、郁人が仕事に家庭に汗を流す夏は、まだまだ続きそうだ。  

(敬称略)