高崎市
富岡賢治高崎市長 に聞く
―元気な街づくりを目指しているが、富岡市長の目指す元気な街とは 高崎を元気な街にしていくためには、ビジネスを盛んにし雇用を確保することが大切だが、それが最終目標ではない。ビジネスを盛んにすることで、福祉や子育て、教育といった市民生活を向上させることが目的。お年寄りが安心して暮らせ、若いお母さんたちから「子育てするなら高崎」と言ってもらえるようにしたい。
―子育てに対する考えは 昔は近くにおじいちゃん、おばあちゃんがいて子育てを支援してくれた。今は共働きだったり近くに親がいなかったりで、子育てに追われて余裕のない若い夫婦が多い。同じ職場で、子育てに追われ疲れ切った先輩を見て、若い人たちが「子育てはあんなに苦労するのか」と結婚、子育てをためらってしまうのではないか。安心して子育てができるようにならないと、良い街にはならない。
―子育て支援の拠点として昨年4月に「子育てなんでもセンター」を開設した 子育て中のお母さんも映画を見に行ったり、買い物に行くことでリフレッシュできるようにと、理由を問わず誰でも利用しやすい託児ルームを設けた。市内にどんな保育園・幼稚園があるのか分からないお母さんには、各園の園長さんに来てもらい相談にのってもらっている。子育て後の再就職に悩むお母さんには、就労相談も行っている。ハローワークと連携することで、これまでに57人の就職を実現した。子育ての悩みも就労の相談も気楽にできるような仕組みづくりを心がけた。
―従来の考え方にとらわれずフレキシブルな対応をしている 市長に就任して待機児童問題について、「高崎は問題ない」と聞かされていたが、若いお母さんからは入園に苦労した話を聞いた。入園できるかどうか半年待たされる状況があった。行政なので年度に縛られていたが、それは行政の都合でしかない。来年度からは入園の申し込みを随時受け付けるようにし、申し込みから2週間で入園の可否を回答できるようにする。 待機児童ゼロではあるが、保育所などは地域的にバランスよくあるのが理想。人口増加地域では不足気味でもあることから、高崎駅周辺には、子育てなんでもセンターのあるオアシス高崎に保育園を、旧群馬町には認定こども園を新設する。旧群馬町の新設では土地購入費用の補助も行い後押しする。
―子育て環境の充実が人口増加につながる 高崎で勤務している市外の方は6万5千人。県内だけでなく埼玉や神奈川から来ている。残念なのは通勤や単身赴任が多く、家族で住んでくれる人が少ない。その原因の一つが教育に関する不安かもしれない。都内では私立の中高一貫校を希望する親が多い。高崎に住んでも進学にハンディを感じさせないようにしたい。昨年、くらぶち英語村を開設した。人口30万人以上の都市では珍しい、市内の全小中学校に外国語指導助手(ALT)を配置し、英語学習に力を入れている。
―高崎アリーナのオープンや芸術劇場の建設が進み、子育て環境にも変化があるのでは 子どもたちが一流のスポーツや芸術に触れられる機会が増える。子どもたちにはよく学びよく遊んでほしい。市内には現状二つの施設が足らないと感じている。屋内の遊び場と子ども図書館。両施設とも高崎駅東口に近く整備しようと考えている。ほかにも烏川沿いの河川敷の教習場跡地をサッカー場に、ゴルフ場跡地を芝生広場に再利用した。ゴルフ場跡地を太陽光発電でなく、子どものためにそのまま活用したのは全国でも例がない。これからもアイデアと知恵を絞り、子育て環境の充実を進めたい。
託児や交流、相談、再就職支援
育児を力強く
サポート
子育てなんでも センター
子育てなんでもセンター(田町)は、子育て中や妊娠中の人がワンストップで気軽にさまざまな相談ができ、必要な支援を受けられる子育て支援の拠点。プレイルームや託児も完備し、開館から1年4か月で3万6千人が利用している。
子育て中の相談は、妊娠期の不安から子どもの健康や発達といった育児全般まで、保健師や保育士などに相談できる。また、約120の保育所・幼稚園・認定こども園の園長が、日替わりで各園に関する情報を提供し、相談を受け付けている。
就労相談は、出産や子育てで離職したお母さんの再就職などを支援。相談に当たるNPO法人が、相談者のキャリアや関心事などを聞き取り、ハローワークと連携して求人情報を提供する。就労が実現した人の中には、正規社員への採用実績も多数ある。
幼児用の遊具を備えた、交流・プレイルームは、読み聞かせや手遊びなども行われ、親子で楽しめる。子育て世代の情報交換の場としても活用され、週末は子連れのお父さんの利用も多い。 子育て中のお母さんが、仕事はもちろん、リフレッシュに映画観賞や観劇、買い物に出かけるときなど、理由を問わず気軽に利用できるのが託児ルーム。保育士資格を持つ職員が保育にあたり、年末年始以外の毎日午後10時まで開所している。登録制で市外在住者も利用できる。
市こども家庭課は、「子育て中は孤独や悩みを抱えているお父さんやお母さんが多い。まずは気軽にセンターに遊びに来てほしい。センターを利用して『高崎で子育てできてよかった』と感じてもらいたい」と利用を呼び掛ける。
待機児童ゼロ継続
保育所申込を 通年に
子どもを預ける保育所を探す、いわゆる「保活」が保護者にとって負担となっている。高崎市は「待機児童ゼロ」を継続しており、大都市圏ほど困難な状況ではないが、自宅に近いなど、条件のいい保育所は人気が高い場合もあり、希望通りに入所できるか保護者の心配は尽きない。市は保活の不安を減らそうと、2020年度の入所の申し込みを、来年4月から年間を通して受け付け、原則2週間以内に結果を通知する方式に改める。
現在は入所する前年度の9月と1月の年2回募集。保護者の就労状況などから入所先を調整し、11月下旬と2月下旬に結果を通知している。入所できるか分からない状況が少なくとも11月まで続くことから、保護者が長期間の不安を抱えることになるとして見直し、安心感につなげたい考えだ。
受け付けが集中する4月などは1カ月近くかかることもあるが、その他の期間ならいつでも申し込みができ、2週間で結果が分かるので、保護者は対応しやすくなる。転入などに伴う途中入所についても、これまで通り随時受け付ける。
ただし、これまで9月だった受け付けが4月に前倒しされることで「早い者勝ちになるのでは」という声もある。市保育課は「施設や保育士の確保に努め、不公平がないようにしたい」と話している。
広がる保育対応
育休中の入所OK
保育事情の厳しい自治体では、育児休業中だと保育所の入所を認められないことが多い。入所の見通しが付かないと、職場復帰のめどが立たず、会社に迷惑を掛けたり、最悪の場合は退職しなければならなくなってしまう。育児のためにキャリアを諦めることがないよう、高崎市では育児休業中でも保育所に子どもを預けられるようにしている。
一時預かりも充実している。「子育てなんでもセンター」内にある託児ルーム「かしの木」は、子育ての合い間の買い物や息抜きなどに利用してもらおうと、6カ月児から小学3年生までの児童を1時間300円で預かる。登録が必要だが、当日でもできるので、困った時に助かる。時間は、午前7時半から午後10時まで。
また、急な病気で保育所に行けなくなった場合、一時的に子どもを預かる施設も増やしてきた。医療機関などと連携して、発熱や下痢、インフルエンザなどで保育所に通えない子どもを預かる施設が現在、市内に4カ所ある。市は「医療機関の協力をいただきながら、対応施設の拡充に努めていきたい」としており、さまざまな保育に対応して、安心して子育てできる環境の充実を目指している。
人材確保の支援
保育士が不足する中、市は人材確保のためにさまざまな支援を行っている。保育園ドリームバスツアーはその一つだ。
ドリームバスツアーは保育士を目指して保育士養成校に通学する学生や、子育てなどで保育現場から離れている保育経験のある有資格者を対象に、市保育協議会との共催で毎年行っている。実際の保育現場を訪ね、現役の保育士と話し合うことで、現状や雰囲気を知ってもらっている。参加者は学生が圧倒的に多い。有資格者は保育現場の変わり方に驚くこともあるという。かつての「預かる施設」から「初等教育の場」として保護者から期待されるようになってきている。