観光の核で活気創出
▲県が「世界遺産センター」を整備するなど建造物の保存活用で魅力的な街づくりが期待される富岡倉庫
観光の核で 活気創出

国宝「富岡製糸場」の世界文化遺産登録3周年を迎えた富岡市。新市役所周辺では、富岡倉庫に設置する予定の「世界遺産センター」など、歴史的な建造物を生かした街づくりを進める。街並みの保存と再生を図りながら、未来へ向かう富岡市のかじを取る岩井賢太郎市長と市外出身で職員の小笠原千晶さん(高崎市)、都筑菜摘さん(高山村)、太田裕也さん(静岡県富士市)に市の魅力と課題を聞いた。

富岡市

外から見た富岡市

富岡市の職員を目指した理由は。どんなところに魅力を感じたのでしょうか。

都筑さん 大学時代に富岡製糸場と行政や民間の関わりをテーマで卒業論文を書いたことがきっかけです。世界遣産があることで他の自治体にはできない独自の仕事がある富岡市に行政側から関わりたいと思いました。

太田さん 地域づくりやまちおこしに興味がありました。新しい土地でまちづくりに携われたら楽しいだろうなと考えていました。大学の卒業論文のテーマが絹産業であったこともあり、富岡製糸場のある富岡市に興味を持っていました。新しい士地で働いてみたい、まちづくりに携わりたい、絹産業に触れられる土地、という自分の願いの三つが合致したのが富岡市職員でした。

小笠原さん 富岡製糸場の魅力発信の最先端に携わり、製糸場をきっかけにして日本の魅力を世界に発信できるという点に魅力を感じました。3年間の留学生活で培った異文化理解の視点を生かし国内外からの観光客のニーズを把握し、「また来たい」と思っていただけるような魅力あるまちづくりに貢献したいと考えました。

岩井市長 3人とも、学生時代から富岡製糸場に関心を持ってもらい、卒業論文のテーマにもしてもらっていたということは、富岡製糸場が世界遺産になったことで、これまでよりも多くの方に興味関心を抱いてもらうきっかけになっているのだと感じます。若い職員が富岡を自分自身で何とかしよう、また、このようにしたいという考えを持っており、熱意を持って職員になってもらったことは、市長としては頼もしく、ありがたい存在です。

富岡市の魅力

富岡市の職員となって気付いたこと、市の魅力はどんなところだと感じていますか。

太田裕也さん(23)静岡県富士市出身。都留文科大卒。17年度入職。地域づくり課で市民協働を担当。養蚕体験施設などの業務に携わる。

太田さん 中心街が非常にコンパクト。商店街に活気があるのは観光だけでなくここに暮らす上でも大きな魅力です。チェーン店ではなく個人のお店が多く、店の多様性が魅力的な「まちなか」を作り出しているように感じます。働く中で感じたのは、地域の方の優しさです。1人暮らしをしている自分にとって、これほど心強く思うことはありません。外から移住した人を拒まず、温かく受け入れてくれる気質は、富岡市職員として働ぎ始めて特に強く感じたところです。

小笠原さん 私も人の優しさは魅力と思います。農家さんと接することが多いけど、分からないことを聞くと親切に教えてくださるし、富岡市のことを教わることも多い。担当している業務の一つに、「市民養蚕事業」がありますが、集まった繭や参加者の声から、皆さんがいかに優しい気持ちでお蚕に接し、大切に育ててくださっているかが分かります。

都筑さん 抽象的ですが、“ちょうどいい”と感じる点がたくさんあります。生活する上で必要な商業店舗や医療機関などは市内ですべてそろい、高速道路網などのインフラも整っているため市外へのアクセスも不便に感じません。人と人の距離感も近すぎず遠すぎず、街のにぎやかさも騒がしすぎず静かすぎず。生活をしていく上で、情報や人やモノがあふれ過ぎず、少な過ぎず、必要なものはしっかりとそろっている、というのが魅力です。

岩井市長 富岡市は、都会のように騒々しくなく、また田舎、過疎地のように不便ではなく、ほどよい田舎といったところでしょうか。地震・風水害などの災害が発生することも少なく、非常に住みやすい街であると思います。また、市外出身の方から地域の人々の優しさがあると感じてもらえることは、大きな魅力の一つです。富岡に以前から住んでいる者からすると当たり前だが、市外の方の感じ方は違っている。移住定住する人にとっても、富岡市の人々の優しさは、大きな魅力ともなります。

富岡市の子育て支援策
  • 妊婦健康相談の実施と妊婦期の訪問指導事業の推進
  • 「マタニティー・スクール」「ペア・スクール」事業の推進
  • 乳児家庭全戸訪問事業
  • 養育支援訪問事業の実施
  • 第3子以降保育料無料化
  • 第3子以降の学校給食費の補助
  • ファミリー・サポート・センター事業
  • 地域子育て支援拠点事業の充実
  • 学童クラブの充実
  • 子育て支援サイト「子育てナビ」の公開

子育て

市が実施している子育て施策について感じていることはありますか。また、これからどんな子育て支援が必要でしょうか。

都筑菜摘さん(27)高山村出身。日本大卒。15年度入職。学生時代は行政法を専攻。観光おもてなし課で観光振興業務を担当。

都筑さん 私たちの世代にとってみると、「子育てナビ」の導入は大きいと思います。働いているお母さんが多い中、空き時間にインターネットで情報を見られ、調べられるのはありがたいです。年齢などから情報の検索ができるため、欲しい情報も探しやすく、見落としていた情報に関しても拾うことができ、「このサイトを見れば大丈夫」という安心できる存在になっていると思います。子育てをしていく上で、不安に思っていることや何となく思っていることでも、気軽に話せる場所や相手が近くにあることが必要だと思います。富岡市では親と子のスマイルサロンやペアスクールなどを設けていて、とみおか健康ダイヤル24を含め、親子に寄り添いながらすごく親身に不安解消に努めてくれていると思います。

太田さん 「子育てナビ」やマタニティ・子育て教室など、富岡市は生まれる前から児童の育児まで支援する制度を整備しています。私はまだ結婚をしていませんがこうした情報発信・支援は非常に助かるだろうと思います。一方で自分のことを思い返すと、高校生・大学生になった時、通学の定期代や学費などお金の問題に直面しました。独自の奨学金制度を整備する自治体もある中で、まだ充実の余地があるのではないかと思います。自治体によっては市町村内に就載すれば返済を免除するなど、奨学金を若者のUターンのきっかけに活用しているところもあります。

小笠原さん 未婚で子どもはいませんが、富岡市の施策の多さに驚きました。いつかは子どもを産みたいという思いがあるので、不妊や不育治療に対する助成があるのは心強いです。半面、親になるときに必要なものを効率よく活用できるか不安。施策を細分化してさまざまなニーズに応えるのか、目玉の施策に内容を充実させるのか、どちらがよいのかは各自治体によって異なると思いますが、富岡市に合った状況を把握するために子育て世代のニーズを把握することが大切だと思います。

岩井市長 富岡市では、安心して子育てできる制度や体制整備を行っています。特に「18歳以下第3子以降の給食費全額補助」「産後ママサポート事業」「ファミリーサポートセンター事業」は先進的な事業ではないでしょうか。また、「子育てナビ」により子育て支援に関する情報を一元的に提供できるシステムを作り、困ったことがあったら、子育てナビにアクセスすれば情報を得られるようにしてあります。来年度からは「子育て世代包括支援センター」を設置して、妊娠期から子育て期にわたる総合的相談や支援を実施していきます。また、「子ども家庭総合支援拠点」を設置して、子どもがいる家庭への支援全般において、実情の把握・情報提供・相談等を行うための拠点を整備します。3人とも未婚ですが、しっかりと将来のことを考えているようですね。さまざまな子育て支援策を用意するとともに、不安や悩みを解消できるような施策を展開することが必要であると考えています。

移住と定住

若者の移住と定住を進めるためにどのような取り組みが必要でしょうか?

小笠原さん 若い世代は職と住居があれば、魅力を感じたところに移住すると思います。市内で魅力ある職を見つけて、地元の人と出会い新たな家庭を築くといった連鎖が続くようにしたいです。

太田さん 地元に住んでいるからこそ、知らないことは多くあると思うので、富岡に魅力を感じずに市外へ出ようとする市民に地元を好きになってもらうことが大切だと感じています。

都筑さん 私は製糸場を入り口に富岡へ移住し、住みよさや人の温かさを感じました。遊べるところや情緒あふれる街並みがあり、穏やかな空気が流れています。こうした入り口づくりを大切にしていきたいです。

岩井市長 富岡でも生糸や絹を使ったまちづくりをしようとする人や独立して飲食店を起こそうとする人がいます。そうした人を増やしていくには、地域に魅力がないと始まりません。高校生に富岡をもっと知ってもらおうと、連続講座「TOMIOKA MEDIA LAB」を開きました。都内や首都圏で働く市内出身者向けにセミナー「TURNSカフェとみおか」を開いて古里に目を向けてもらう機会にしています。こうしたイベントを移住や定住につなげたいと思っています。1月3日に掲載された上毛新聞の連載記事「高3の意識から探る あしたの群馬」によると、富岡市在住の高校3年生の総合愛着度が県内12市で1位でした。自らが住む地域への愛着度が高いことは定住につながると期待しています。

富岡市の未来

富岡市の未来について、どんな街にしていきたいですか。

小笠原千晶さん(30)高崎市出身。東京農業大学卒、台湾・国立中興大卒。16年度入職。中国語が堪能。農政課で農業振興、市民養蚕を担当。

小笠原さん 市民の皆さんが持っている地元への関心とか、意識の高さが続いてほしい。市民みんなが愛着を持てる街であってほしい。そのためには、大きなことをやるよりも小さいことの積み重ねだと思うので、今ある地域の行事を、あらゆる世代の人たち、地域外の人たちとも協力して継続していく必要があると思います。

都筑さん 自治体が存続していくのが大変になっていくこれから、今の富岡市のままであり続けるよう努力していく必要があると思います。そのためには私たち世代が、今頑張っている上の世代の人たちに負けないくらい地域や街に目を向け、考えていかなければならないと感じます。街にこんな課題や問題があるという思いを持っていて、時代に合った解決策を知っている若い世代の人たちを、地域づくりや街づくりに取り込む工夫がもっと必要だと感じています。

太田さん 世界遺産登録後の盛り上がりも落ち着き、市外部への情報発信だけでなく、内部に向けたまちづくりを本格化させるべきだと思います。「世界遺産にふさわしいまち」とは市民一人一人が世界遺産と暮らしているという誇りを持っている状態ではないかと。製糸場、ひいては明治以前からの養蚕文化に誇りを持ち、その伝統を守っていく、そんな街になればと思います。私のように富岡市に魅力を感じ、移住したいと考える人は少なくありません。「移住コーデイネーター」を導入するなどして移住に関する問い合わせ窓口を一本化したらどうでしょうか。「分からないことがあればこの人に聞けばいい」という安心感は、移住をした身として、非常に魅力的に感じます。

岩井市長 若者の視点でさまざまな事を考えていてくれることは頼もしいかぎりです。市民が安心して暮らせるまち、他の地域から訪れてもらう方々にも魅力的なまちになるためには、まだまだ努力が必要です。魅力のあるまちづくりをするのは、当たり前のことですが、住んでみたい街、住んで良かった街にしていかなければならない。富岡製糸場周辺には「明治・大正・昭和」と各時代の建物が混在しており、風情ある、何か懐かしさを感じる街並みとなっています。市外から来た方から、「いい街ですね」と言われることが多くなりました。魅力ある建築物の保存活用については、まず富岡倉庫の活用があります。この敷地内に群馬県が世界遺産センターを設置することが決まっております。この施設整備に併せて周辺を整備し、「ここだけにしかない魅力的な空間」をつくっていく計画です。また、富岡製糸場前にある「明治期の長屋」を活用し、観光案内や製糸場のお客さまを受け入れる施設として整備して、まちなかへの誘導と回遊性の向上を図っていきたいと考えています。富岡でしか味わえない楽しい空間で、飲食や体験・宿泊等ができ、そこに市民と触れ合いができれば、最高の旅の思い出になります。富岡には「磨かれていない宝」がまだまだありますので、磨いて活用して、そして稼げる仕組みまでできると、地域の価値が上がり、そのことが空き家対策にもつながると思っております。これからも、富岡市では、「世界遺産を持つ地域にふさわしい日本一のまちづくり」に取り組んでいきます。